浅田さんは、もちろん当代随一の構想力をもつ書き手である。そして、じつに巧みな語りによって文章を紡ぐ名手である。
どんなに大胆に構想したフィクションであっても、書き方が悪ければ読者の心は震えない。フィクションを真実らしく読ませるのは、なんといっても作家の文体の力である。
浅田さんは語りの巧みさをもって、文体に強靱な力を与えている。それは、浅田節と呼びたくなるほどの至芸の風格をそなえている。
現代物でもどんな種類の作品でも、浅田さんの文体には、縷々とした語りの調子があってすぐに作品世界の奥底に引き込まれてしまう。浅田さんの作品群のなかでは、あっさりした文体である『蒼穹の昴』でさえ、じつは読者への語りかけを基本にしている。
浅田節がことのほかたっぷり堪能できるのは、『天切り松 闇がたり』シリーズであり、『沙髙樓綺譚』や『月のしずく』、『薔薇盗人』などの連作短編集である。いま書棚から取り出してみたが、どの作品もあまりにも語りの調子がよくて、どこから読み返してもそのまま読み進めたくなってしまう。たとえ表面的には明るさや軽さが装われていても、浅田さんの語りの底には、孤独感や喪失感が染み込んでいて読む者を虜にする。
新選組三部作も、むろんその至芸で紡がれている。
三部作の二作目『輪違屋糸里』では京都島原の太夫糸里をはじめとする女たちや新選組隊士たちの語りがたっぷり楽しめる。
――ああ、また泣かされるだろうな。
と思いつつ読み進めると、やっぱり絡め捕られて泣かされてしまう。どうにもこうにも抗いがたい力をもった言葉の韻律が周到に物語を組み立てているのだ。浅田さんの語りの魔力にかかると、読者はまったく非力である。
一刀斎夢録 上
発売日:2013年10月04日
一刀斎夢録 下
発売日:2013年10月04日
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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