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信念の覚悟で人生を切り拓くヒロインの新たな“色”

信念の覚悟で人生を切り拓くヒロインの新たな“色”

文:細谷 正充 (書評家)

『白露の恋 更紗屋おりん雛形帖』 (篠綾子 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #歴史・時代小説

 そして物語の終盤で、シリーズは大きく動く。意外な事実を知った熙姫と蓮次が、それぞれの場所で新たな決断を下すのだ。しかも蓮次の決断を受け、おりんも新たな決断をする。このことに関連して、二〇一四年七月三十一日に「本の話WEB」にアップされた、作者のエッセイ「自著を語る」に留意したい。その中で作者は、初めて江戸時代小説に挑戦するにあたり、書こうと決めたことがふたつあり、そのひとつが“縫物や染物など「衣」に携わる女性を主人公にすること”だと述べ、

 

「縫物、機織りをして男を待つ女といえば、七夕の織姫が有名ですが、古典文学でも平安版シンデレラ『落窪物語』の主人公などがそうです。

 このイメージから、呉服屋の娘おりんは生まれました。ただし、舞台は江戸。女性はただ待つだけの人生を送っていたわけではないでしょう。だから、私は待つ女ではなく、自ら求めるものに向かってゆく女性を描きたかった」

 

 と、続けているのだ。たしかにおりんは、「更紗屋」再興のために、常に前を見て歩み続けてきた。まさに“待つ女ではなく、自ら求めるものに向かってゆく女性”なのである。だから本書のラストで示された、おりんの“うちは待ってます”という決意には意表を突かれたのである。

 でも、よく考えたら納得できた。彼女の待つという決意は、消極的なものではなく、積極的な選択なのだ。仕事のみならず恋も、己の信念と覚悟で、切り拓いていこうとしている。その姿勢にヒロインの、たまらない魅力が表現されているのだ。

 ところで、熱心なファンならば、本シリーズを本棚などに並べて保存していることと思う。その背表紙を眺めて、気がつくことがないだろうか。そう、「墨」「黄」「紅」「山吹」「白」と、すべて色の漢字が入っているのだ。しかも収録作品とは微妙に違っていて、オリジナルのタイトルになっている。いったいなぜ、そこまで趣向を凝らすのか。作者のこだわりなのであろう。作品の中身だけでなく、看板まで細心の注意を払い、極上のものを読者に提供する。ここまで手をかけるのだから、本シリーズが面白いのも、当たり前なのである。

 だから、シリーズの先が気になってならない。特に本書は、三人の主要人物がそれぞれの決断を下したことにより、物語が新たなステージへと突入することを、強く予感させてくれるのだから。「更紗屋」の再興は成るのか。熙姫と再会できるのか。そして桜木蓮次との恋はどうなるのか。新たな“色”を見せてくれるであろう、シリーズの続きが、待ち遠しくてならないのである。

白露の恋 更紗屋おりん雛形帖
篠綾子・著

定価:本体750円+税 発売日:2016年08月04日

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