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物語と仕掛けの素晴らしさに<br />作家の大器を確信した

物語と仕掛けの素晴らしさに
作家の大器を確信した

文:縄田 一男 (文芸評論家)

『宇喜多の捨て嫁』 (木下昌輝 著)


ジャンル : #歴史・時代小説

『宇喜多の捨て嫁』には六作の中短篇が収録されているが、表題作では、於葉の嫁ぎ先の後藤家が、宇喜多家とともに浦上家が主筋だが、既に勢力が衰えていること、西に毛利家、東に織田家があるため、宇喜多家が弓を引いても許すしかないこと、さらに尼子家の台頭などが手際よく語られ、それらを六篇の作品が説明するロンド形式がとられている。

 いずれの作品も物語と共に仕掛け自体が素晴らしいので、詳述はしないが、於葉が、後藤家の嫁取奉行安藤相馬に殺意をもって近づく場面の緊迫感はどうであろうか。そして、その後、相馬の口から繰り出される「無念」の一言によって明かされる真実とは? 加えて、急転直下のラストの手際のよさ。

 表題作を読んだだけで、私は、この作家の将来の大器を確信した。一つには文体の持つ戦国乱世を描く温度の確かさ。複雑な人間関係を描いても読者に体力を強いない読み易さ。人物造型の確かさ。物語づくりの上手さ。

 何やら随分と絶讃しているではないか、といぶかしむ向きもあるかもしれない。

 確かにこれは新人の第一作であり、敢えてケチをつけようと思えば、いまホメた分くらいは容易に上がってこよう。では、何故、それほど期待するのか、というならば、自分がプロになって三十年以上、歴史・時代小説を定点観測してきた勘であるとしかいいようがない。

 この他、宇喜多直家の少年時代を独自の手法で描き、その呪われた太刀筋の来歴から現在に至る「無想の抜刀術」、「貝あわせ」などとやさし気な題名ながら、この一巻で最も凄まじい権謀術数が展開する力作感あふれる一篇。皮肉なラストが効果を上げる「ぐひんの鼻」等々。

 もし、このまま快進撃を続ければ、戦国の描き方は、まったく違うものの、木下昌輝は、いま、最もパワフルに活躍している伊東潤の良きライバルとなるかもしれない。

 久々の嬉しい作家との邂逅だ。

宇喜多の捨て嫁
木下昌輝・著

定価:本体1,700円+税 発売日:2014年10月27日

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