
吉村萬壱は1人しかいない

長嶋 でものたうち回ったのち、2003年に見事「ハリガネムシ」で芥川賞を受賞したじゃないですか。
吉村 はい。これはでも、本当に実力だったのかどうか……。
長嶋 実力ですよ。
吉村 ええ、まあ実力なんですけど(笑)、巡りあわせというかね。ただこういう感情って、作家はものすごくあると思うんですよ。
長嶋 あいつばかり売れて、とか、あれが重版なんて、とかね。なんか暗い話になってきたな(笑)。僕らと同じ2001年にデビューした作家で、島本理生さんや綿矢りささんは別として、いまも書き続けている人って少ないですよね。だから、もはやいがみ合っている場合ではないというか……。いやべつに、いがみ合ってないけど(笑)。前作の『独居45』から5年あきましたが、この間は結構ジリジリしてたんじゃないですか。
吉村 いや、実はそうでもない。ひたすら疲れていました。教師と作家、二足のわらじをはいてきたんですけど、だんだん辛くなって……。夜8時頃に家帰ってご飯食べて、気が付くと朝の5時になってる。気絶するように寝てるんですわ。で、シャワーを浴びてまた仕事に出かける……。週末はひたすら寝だめです。
長嶋 そうなるでしょうね。
吉村 両立できないことが、小説を書かないことの言い訳になる。逆に学校がうまくいかないときは、僕は作家で大変なんだからしょうがないわ、となる。このままだと両方が中途半端でだめになる思うて去年の春、教師をやめたんです。先生の代わりはおるけど、吉村萬壱は1人しかいない、と自分に言い聞かせて。
長嶋 先生をやめられて、いつ頃から「ボラード病」を書き始めたんですか。
吉村 やめたあと3カ月間は仕事をしないと決めてたんです。ものすごい解放感で寝てばかりいましたね。夜中の3時にスーパー銭湯いったり、俺は自由やーっと。でもね、3カ月たつと人間て弛緩してくるんですわ。これでいいのか、小説を書くためにやめたんじゃないのか、と。で、「文學界」に締切作ってもらって、夏頃から1日1章ずつ書き始めたんです。
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