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担当編集者が語る<br />ノーベル賞受賞 山中伸弥教授の素顔

担当編集者が語る
ノーベル賞受賞 山中伸弥教授の素顔

文:池延 朋子 (ノンフィクション局編集者)

『「大発見」の思考法』 (山中伸弥・著 益川敏英・著) /『生命の未来を変えた男 山中伸弥・iPS細胞革命』 (NHKスペシャル取材班・編著)


ジャンル : #ノンフィクション

中身で勝負するだけでは世界に勝てない。アメリカ留学で開眼

『「大発見」の思考法』
(山中伸弥・益川敏英 著)

 ノーベル賞受賞後、中学高校と山中さんと同級生だった自民党の世耕弘成参議院議員が、「どこであんな話術を身につけたのか。高校のときはあんな感じではなかった」と驚いていましたが、実は、その秘密も『「大発見」の思考法』で明かしてくれています。

 もともと「自分は発表が下手やなぁ」と思っていた山中さんは、アメリカ留学で「みんなプレゼンが上手や。やっぱり俺は損してるな」とますます強く感じるようになり、車で30分ほど離れたキャンパスで週2回プレゼンのゼミに参加するようになりました。そこで身ぶり手ぶりまで鋭く批評されることで「目から鱗が落ちる思い」がしたそうです。

山中 「アメリカの研究者は、若い頃からこういう体験を通して、自分をどうやってアピールすればいいか体で覚えるんだな。中身で勝負するだけじゃ、世界との競争には勝てない」と、実感させられました。(中略)当たり前のことが、できんのです。それを何度も何度も叩き込まれました。

 帰国後、iPS細胞研究の始まりの場となった奈良先端大の公募に応募したとき、アメリカのプレゼンのゼミで教わった「あること」に気を付けたことで採用してもらえたと語る山中さんは、プレゼン力を身につけることで「人生も変わった」と振り返ります。

挫折や回り道を経験したからこそ、iPS細胞に出会えた

 本書の中で、山中さんは、自らの挫折や「うつ状態」の体験も率直に語ってくれています。人生には目標に向かってまっすぐ突き進む「直線型の人生」と、途中で方向転換したり回り道したりしながら進む「回旋型の人生」の2種類がある、というのが山中さんの自説。

山中 はたから見たら、僕の人生は、遠回りで非効率に見えるかもしれませんし、無駄なことばかりやっているように思えるかもしれません。もっと合理的な生き方が出来たんじゃないの? と思われるかもしれませんが、そうやって回り道したからこそ今の自分があるんじゃないかと思います。

 この他にも、科学と神、自然や脳の奥深さ、生命の神秘についての最先端の科学者ならではの熱い議論は必読です。iPS細胞のつくりだす未来について、山中さんはこのように語っています。

山中 iPS細胞を人の役に立てたいという気持ちは非常に強く持っています。私は臨床医としてはぜんぜん人の役に立ちませんでした。だから死ぬまでに、医者らしいことをしたいのです。

 私に「医者になれ」と熱心に勧めてくれた父は、私が研修医2年目のときに病気で亡くなりました。どんどん症状が悪くなって手の施しようがなくなってしまったのですが、父は、私に点滴をしてもらって、ニコニコしながら死んでいったのです。息子が医者になったことが嬉しくて誇らしくてたまらない、というように……。

 「あの世で親父と会う時、顔向けできない」なんてことがないように、残りの人生で自分に出来る限りの力と情熱を注ぎ込みたいと思っています。

【次ページ】鼎談 山中伸弥×立花隆×国谷裕子

「大発見」の思考法

山中伸弥・著 益川敏英・著

定価:872円(税込) 発売日:2011年01月20日

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生命の未来を変えた男

NHKスペシャル取材班・編著

定価:1500円(税込) 発売日:2011年08月27日

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