
- 2012.10.19
- 書評
担当編集者が語る
ノーベル賞受賞 山中伸弥教授の素顔
文:池延 朋子 (ノンフィクション局編集者)
『「大発見」の思考法』 (山中伸弥・著 益川敏英・著) /『生命の未来を変えた男 山中伸弥・iPS細胞革命』 (NHKスペシャル取材班・編著)
ジャンル :
#ノンフィクション
iPS細胞の持つ倫理的課題
もともと山中さんはES細胞の持つ倫理問題を回避するためにiPS細胞の研究に着手しました。しかし、iPS細胞の開発が画期的なものであったからこそ、今、まったく新しい倫理問題が出現しています。
山中 アメリカの場合は体外受精という方法で、デザイナーズベビーといって、ノーベル賞や超一流のスポーツ選手の精子を売買しているところもあります。ただ、デザイナーズベビーなら精子をもらわないとできないんですが、iPS細胞だと、髪の毛1本からできることもあります。この間、日本のグループが、採血した血液から作ることに成功しました。そうなってくると、血液なんて健康診断を受けても採血するわけですから、勝手にiPS細胞が作られるという可能性を今から考えておかないとダメです。しかし、そういうことを踏まえたうえで、今不妊症で苦しんでいる人がものすごくいるのは事実で、そこは研究するべきだと思います。
科学者としての良心を基礎に難病治療に挑む
山中 肝臓が専門の消化器のドクターが私の研究室に大学院生としてやってきて、彼が何の研究をするかという時に、じゃあ肝臓の細胞からiPS細胞を作ろうということになったんです。ネズミの肝臓から持ってきたiPS細胞が出来て、それを移植して子どもを産ませたら、全身がその肝臓から作ったiPS細胞由来のネズミが生まれた。で、これを見たときにだんだん怖くなってきて。もともと肝臓とか胃の細胞だった細胞から、全身その細胞でできたマウスが目の前にいるわけです。ちょっと、こんなことして良いのかな、と。で、それを作っていた技術員の女性に、「あなた、人類が誰もやったことのないことをしてるんだよ、肝臓の細胞から新しい生命を作り出したんだよ」って思わず言ったんです。
医師として、科学者としての良心を胸に、研究を続ける山中さん。iPS細胞による医療革命、難病解明から倫理問題まで、iPS細胞が映し出す生命の未来とは──。山中伸弥が起こした「革命」について深く理解することが出来る1冊です。