書評

いちばん大事な昭和史の教訓

文: 半藤 一利

『そして、メディアは日本を戦争に導いた』 (半藤一利・保阪正康 著)

文庫版のための追加まえがき

 この対談が本になって世にでてから二年余がたっています。いま、文庫版としてあらためて世に問うことになって、時代遅れもいいところの阿呆な本なのではないか、という危惧をゲラを読み直しながら感じています。というのも、あまりにも激しく、そしてスピードをあげていまの日本が変化しすぎている。本書の終章の「現在への問いかけ」で、二人して「困ったものよ」と歎くぐらいではすまなくなっているからです。

 竹島や尖閣の問題に端を発しての過激なナショナリズムの高揚、慰安婦問題にからんでの朝日バッシング、さらには特定秘密保護法や安全保障関連法の成立と、国家はほんとうに目もくらむほどの速さで変容をとげています。不戦の誓いのもとに形成された日本の民主主義とそれを支える憲法は、あっという間に空洞化され、思考停止して同調し集団となった人びとは、異質を排除して不寛容になる傾向をいっそう強めつつある。こうなると、本書で二人して一所懸命に説いた言論の自由の大切さなんて、所詮は聞く耳をもたれない雑音にすぎないのかもしれません。

 ま、それだからこそ、私たちは歴史の教訓をどう読みとっているかを若い人たちに知らせ、若い人は同じ考えをもたなくともいいが、自分の判断で物事を考える責任のあることを伝える、それが大事なときなんだ、とあらためて確信することにしたのです。

 

 平成二八(二〇一六)年 一月

(「はじめに」より)

そして、メディアは日本を戦争に導いた
半藤一利、保阪正康・著

定価:本体550円+税 発売日:2016年03月10日

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