──まず早川龍雄(たつお)さんのご紹介からお願いできますか。
藤森 早川龍雄さんは、一九六三年から九二年までワーナー映画宣伝部に在籍された方で、いわばその業界では知らないひとはいないという存在です。彼の仕事を軸に、戦後の洋画配給史、洋画宣伝の歴史をまとめてみたいと思いました。
この本のあとがきにも書きましたが、池波正太郎さんゆかりの銀座の小料理屋さんではじめてお目にかかりました。あらかじめうかがってはいたんですが、とにかく能弁で、ほとばしるように次から次へとお話をなさる。小料理屋のカウンターで箸もコップも動かない。話しっぷりが江戸弁の、しかも噺家(はなしか)的な話し方に近い。メリハリがついていて、さすがに映画をたくさん観ておられるだけあって、話の間(ま)とか、どうやってひとを引きつけるかという点においてプロなんです。もともと下町生まれの人なのですが、いやあ、感心したというか圧倒されたというか。
一方で、早川さんは非常に几帳面な方で、百冊ぐらいのスクラップ・ブックをお作りで、自分が関わった映画宣伝の新聞広告、雑誌広告、さらにその時の新聞記事の映画評とかが全部ある。映画館の大行列とか火事とかの写真や新聞記事までありました。そういう几帳面さと能弁がなければ、こういう形の本にはならなかっただろうと思います。
──「本の話」の連載にかなり加筆されましたね。
藤森 連載は十二回の予定を三回オーバーして十五回になりました。ワーナー映画の話を中心にすすめましたが、本にまとめるときには、その時代とか、あるいは他の映画と比較して書いたりとか、ワーナー映画以外の洋画にも触れました。また、日本映画についても書きました。もうひとつ大きな違いといえば、連載中は意識して僕自身の映画体験は書かなかったんですけれども、本にはあえて書かせてもらいました。僕自身が幼いときから映画好きだったので、僕の映画体験と比べることによって、それぞれの時代からいろいろなことが見えてくるんじゃないかと思って。