書評

五木寛之は、けっこうヤバい?

文: 釈 徹宗

『70歳! 人と社会の老いの作法』 (五木寛之・釈徹宗 著)

■ミッション:五木寛之の狂気を引き出せ

 そんなわけで、わずか数度しか会っていないにも関わらず、私は「世間は五木寛之をとらえそこなっている」と(勝手に)実感した。みんな、だまされているぞ。この人はもしかするとものすごい狂気を潜ませているかもしれないぞ。それを引き出せ、と(勝手に)思っている。

 その役割を担えるのは、残念ながら、僧侶や知識人ではないだろう。アート系か。シャーマン系か。放浪芸能系か。荒川修作の天命反転住宅にしばらく住んでもらうのはどうか。いや、人前に現れなくなって久しい天才ボーカリスト・ちあきなおみを呼んで来て、「夜へ急ぐ人」や「朝日楼」を丸一日聞かせるか。もし実現することになったら、その場に同席させてもらいたい。

 ただ、本書においても五木さんの内面の奥を垣間見ることができる。勘のよい読者なら私が言わんとしていることはわかるはずである。あなたは読み取れるだろうか。おだやかな語り口の中に潜むものを。

 対談を通じて、もうひとつ感じたのは、かなり早い時期から「もうあとは余生だ」的な感覚をもっているのではないかということであった。基本的には強いこだわりがない。それが仏教によってつちかわれたものなのか、過酷な少年時代に由来するものなのか、あるいは九州人気質なのか、そのあたりはよくわからない。しかし、その余生感が実に魅力的であった。会うたびに魅了されていくのが自分でもわかった。七十歳の戦後日本社会に不可欠な人である。成長期と同じ価値観や方向性では立ち行かなくなってきた今、コミュニティの立ち上げから、自身の消費者体質の見直しに至るまで、我々はこれからも五木さんの語りに耳を傾けねばならないのである。

(「おわりに」より)

五木寛之(いつきひろゆき)

1932(昭和7)年福岡県生まれ。生後間もなく朝鮮に渡り、47年引き揚げ。52年、早稲田大学文学部露文科入学。57年に中退。編集者、ルポライターなどを経て、66年『さらばモスクワ愚連隊』で第6回小説現代新人賞、67年『蒼ざめた馬を見よ』で第56回直木賞、76年『青春の門筑豊篇』ほかで第10回吉川英治文学賞を受賞。81年より一時休筆して京都・龍谷大学に学んだが、のち文壇に復帰。2002年には第50回菊池寛賞を受賞。著書は『蓮如』『大河の一滴』『他力』『親鸞』『はじめての親鸞』『選ぶ力』『杖ことば』等多数。


釈徹宗(しゃくてっしゅう)

1961(昭和36)年生まれ。宗教学者・浄土真宗本願寺派如来寺住職、相愛大学人文学部教授、特定非営利活動法人リライフ代表。専攻は宗教思想・人間学。大阪府立大学大学院人間文化研究科比較文化専攻博士課程修了。その後、如来寺住職の傍ら、兵庫大学生涯福祉学部教授を経て、現職。『死では終わらない物語について書こうと思う』『法然親鸞一遍』『宗教は人を救えるのか』『いきなりはじめる仏教生活』『仏教シネマ』(秋田光彦との共著)『聖地巡礼 ビギニング』(内田樹との共著)等、著書多数。

70歳! 人と社会の老いの作法
五木寛之、釈徹宗・著

定価:本体780円+税 発売日:2016年08月19日

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