- 2016.11.04
- 書評
航空機を知り尽くした著者が書くドローン・エンターテインメント小説の決定版!
文:大森 望 (文芸評論家)
『ドローン・スクランブル』 (未須本有生 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
小説の主役は、技術の専門家たち。大学で制御工学を学び、ロボットを開発する会社に勤めていた在原友耶は、たまたま公園で見かけたドローンに魅せられ、ドローンを扱うベンチャー企業、リモートテックを静岡市郊外で立ち上げ、自社製品の発売にまで漕ぎつける。
基山製作所で防衛省向けのUAV(無人機)開発を手がける緒方知英は、ドローンに興味を抱いて在原に接触。リモートテックの製品を購入して、レクチャーを受ける。さらに、自衛隊の技官から、「年度末で30万円ほど予算が余るからそれを使ってドローンに関する調査レポートを出してくれ」と虫のいい依頼をされたことで、さらに深入りしてゆく。
一方、三友重工の防衛航空機部の内山田幸介は、社長の鶴のひと声で、ティルトローター式のヘリ(オスプレイのように、ローターを傾けて水平飛行できるヘリ)を民間向けに開発する可能性を探るという無理難題を押しつけられる羽目に。
そして、前二作『推定脅威』『リヴィジョンA』で主役を張った四星工業の若手技術者・沢本由佳は、自社が中心になって開発し、すでに自衛隊に配備されはじめている超音速機TF‐1の複座型に関して、新たな用途を考え出す必要に迫られる。
ライバル関係にあるメーカー3社(国内航空機シェアのトップ3)をひとつに結びつけるのが、このシリーズの軸となるフリーランスのデザイナー、倉崎修一。予算30万円から始まった話が、倉崎のアイデアで、思いがけない共同開発プロジェクトに成長してゆく。
全体の8割は、この新型ドローン(その名も“ティルドロ”)開発の舞台裏を描く“ものづくり”小説。防衛省との折衝、根回し、プレゼン、部署間の軋轢、ライセンス契約のあれこれ、風洞実験、会議また会議……と、プロジェクトの進展がリアルすぎるほどリアルに描かれてゆく。しかし後半に入って、意外な“敵”が登場したあたりから一気にミステリ度が高まり、張りめぐらされた伏線が生きてくる。航空機を知り尽くした著者でなければ書けない、ドローン・エンターテインメント小説の決定版だ。
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