書評

東大の同級生作家が語る、「ぼくのお薦めミステリ百冊を読破した未須本君」

文: 小森 健太朗 (作家・評論家)

『推定脅威』 (未須本有生 著)

『推定脅威』 (未須本有生 著)

 私の知っている人の中で、未須本くんは、異彩を放つ才人である。

 著者ご本人よりじきじきに筆者が指名をいただいたのは、「この作品は学生時代に小森くんとの交友がなかったら書けなかった」という理由があるからだそうで、作品そのものの内容を解説するには私より他にもっと適任者がいるだろうという気がするが、年来の知己である立場からの解説を求められたのだから、個人的な思い出話をまじえて書くことにしてもよいだろうと思い、引き受けることにした。

 

 私が著者と知り合ったのは、同じ年に入学した大学のサークルを介してであるが、最初の自己紹介のときに私が言ったことが彼に強烈な印象を与えたらしい。実を言うと私の方では、その自己紹介のときのことはあまり覚えていないのだが、「江戸川乱歩賞の候補に最年少でなりました」とか言ったようだ。そのことは私の自慢のタネなのでたぶん自己紹介のときに喋ったのだろうと思うが、彼は私に「その原稿を貸してくれ。読ませてくれ」と頼んできて、私は手元にあった手書きのコピー原稿(『ローウェル城の密室』の手書き版)を貸した覚えがある。私が自己紹介のときにその経歴を喋ったことは何度かあるが、たいてい「ふうん」と流されることが多く、「これはすごい」と思ってもらえる場合はそんなに多くないが、彼からはどうやら私はそのように思ってもらえたようだった。

 

 大学で知り合ったサークル仲間には、何人かミステリをよく読んでいる人たちがいた。ミステリ評論家である鷹城宏氏とか、コレクターとして有名な「猟奇の鉄人」さんなどである。未須本くんは、彼らほどではないが、クリスティなどの海外ミステリ作品にはそれなりに通じていた。私はそんな彼に「君はクリスティは知っているようだが、それだけでは足りぬ。アントニー・バークリーなども読みたまえ」と勧めたりした。私がそんな勧め方をした人間は、彼以外にも何人かいた覚えがあるが、彼の場合、実際に勧められたものを読んできて、「勧められたとおり読んだ。本当にバークリーは素晴らしかった」というものだから、私の方でかえって驚いたりした(こんなに、人の勧めを真に受けるヤツがいるかよ……!?)。もっとミステリの名作を知りたいとかいうので、私が「お薦めミステリ」を百冊だかそれくらいリストにしたこともある。松本清張賞贈呈式に呼ばれて行ったときに、そのとき読んだミステリが自分が小説を書くことに役立ったと感謝されたので私は「あのときリストにしたものをまさか全部読んだのか!?」と驚愕した。そんなに私の言うことに耳を傾ける人間がいること自体がオドロキである。

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推定脅威
未須本有生・著

定価:本体740円+税 発売日:2016年06月10日

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