インタビューほか

七年かけた受賞作『火天の城』

「本の話」編集部

『火天の城』 (山本兼一 著)

信長テクノクラート三部作

――『白鷹伝』にも信長が登場します。最後は家康にまで仕える一人の鷹匠についてお書きになったものです。そもそも信長に代表される戦国時代にご興味が強かったということですか。

山本 そうですね。なんといっても信長に興味があります。なぜ信長なのかと言うと、いちばん構想力と実行力のあった人だと思うんです。自分で思い描いたことをちゃんと突き進めていき、実現させる。若い頃は信長よりも、秀吉が好きだったんですよ。でもよく考えてみたら、それは吉川『太閤記』が好きだっただけで、べつに秀吉そのひとが好きなのではないということに気づいたんです。山田風太郎先生の『妖説太閤記』を読むと、極悪人としての秀吉が書いてあって、「ああ、そうか。これが筆の力だな」と思いました。それで調べてみると、秀吉というのは信長の後継者で、信長の路線を踏襲した人だということがわかってきて、じゃあ誰が最初の発想者かというと、やはり信長にいき当たる。信長はたぶん近代――近世ではなくて――を開いた人かなという気もします。刀にしても、信長の時代には名刀がほとんどないそうです。それは大量生産をさせたからだと思うんですよね。足軽が敵を斬るためには名刀である必要などさらさらない。兵隊を数として扱ったのも信長だろうと思います。きわめて合理的に考えるひとだった。いろんなことが信長から始まっているなと思いました。

――とても興味深いのは、そうして信長に強い関心をお持ちでいながら、『白鷹伝』では鷹匠という職業に就いている人間を、その職業の詳細について極めて緻密にお調べになって書いていらっしゃいます。『火天の城』は安土城を造った棟梁たちが主人公で、これも言ってみれば職業としての大工を徹底的にお調べになって、築城の話を緻密にお書きになっているわけです。こうした職業ないしは職人の細部を通してその時代を書くという手法は、なにかヒントがあったのですか。

山本 大好きな書き出しなんですが、吉村昭先生の『戦艦武蔵』は、有明海の海苔(のり)業者が海苔の養殖に使う棕櫚(しゅろ)が九州から消えてしまって困っているというところから始まります。それはドックを覆う網をつくるのに、海軍が買い占めたからなんですね。戦艦武蔵建造というプロジェクトの大きさを細部が見事に表現している。そういう書き方がしてみたかった。

――これからもしばらくは信長を追いかけてゆくのですか。

山本 いま信長の鉄砲の師匠について取材を進めています。「信長テクノクラート三部作」と勝手に言っていますが、鷹匠、大工、砲術師の技術官僚三人です。この三部作で信長はお終いにしようと思っています。

――今度は銃についていろいろお調べになっているわけですね。

山本 ええ。火縄銃を撃ちたくて公安委員会の猟銃等の講習会に行って、今のところ空気銃は持っているんです。日本前装銃射撃連盟という組織がありまして、火縄銃というのは前から装填するから前装銃というんですが、これを撃っている人たちがいます。関西では和歌山県で撃てるんです。火縄銃は古道具屋に行けば買えますけれども、それを撃てるように修理してくれるところなんかどこにもない。ところが、この人たちのなかにすごい人たちがいっぱいいて、自分で修理するので自宅がもう鍛冶屋のようになっているんです。前装銃の国際大会もあります。日本大会は普通の筒の立射、膝射ち、侍筒(さむらいづつ)という十匁の弾のものと、短い馬上筒と四種目あるんですけれども、馬上筒などは五人ぐらいしかエントリーしないので、今からでも頑張れば全日本チャンピオンになれるかもしれません(笑)。

――じゃあ山本さんがチャンピオンになる日も遠くないわけですね。

火天の城
山本兼一・著

定価:本体630円+税 発売日:2007年06月08日

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