ブラック企業を見極めるには
『ブラック企業』(文春新書)の著書もあり、若者の労働環境を調査するNPO「POSSE」の今野晴貴代表は、これまで多数のブラック企業に関する相談を受けてきた。その経験からいくつかの傾向が挙げられるという。大別すると、「大量採用」「選別」「使い捨て」「無秩序」だ。
「もともとの社員数に比べて、それと同じくらいの新入社員を採用する『大量採用』は、裏を返せばそれだけ辞める社員も多いということ。そのために、会社に残るのが厳しいくらいのパワハラで『選別』したり、異常な長時間労働で酷使させて『使い捨て』する。あるいは、一部の上司がパワハラや暴力など『無秩序』な労務管理で精神的に追い詰めていく」(今野氏)
POSSEへの相談件数は2011年度は350件ほどだったが、2012年度はその約3倍の1000件を超すことは確実だという。相談内容も08年までは残業代の不払いなどが中心だったが、09年以降は無秩序なパワハラや長時間労働など、明らかに使い潰す方向に傾いた。
「買い手市場で企業側が有利になり、新卒という労働市場の価値が下がった。そこにブラック企業はつけこんだわけです」(同前)
従来、若者の卒業後の離職率は中学・高校・大学の比率から「七五三」と言われ、その比率は今も昔も変わっていない。だが、その内実は5年ほど前と大きく異なると今野氏は言う。
「08年頃までの離職はスキルアップや転職など前向きだった。ところが、リーマンショック以後は、これ以上会社に残れないという望みのない離職。質がまったく変わっているんです」
では、現在就活にあたる学生は、どのようにしてブラックか否かを判断すればいいのか。
今野氏はブラック企業を見極めるのは簡単ではないと認めた上で、企業にあたる際、少なくとも次の5点をチェックすべきだという。
●給与を「基本給」と表示せず、時間外を含めた総額表示など曖昧な表記にしている(※残業代などを支払わない可能性あり)。
●総従業員数に対して、新卒の募集人員数がかなり多い(※大量採用後に大量離職の可能性あり)。
●採用選考の面接過程で、いきなり契約書にサインさせる(※雇用契約を吟味させず、口頭での労働条件と異なる可能性あり)。
●「裁量労働」など融通無碍な労働条件を謳っている(※裁量労働は五年以上の経験が必要)。
●同業他社に比べて平均年齢が若すぎる(※離職率が高く、若者の採用と使い潰しの可能性あり)。
学生では企業の実態はつかみにくいものだが、最低限これだけ把握して臨めばブラック企業に騙されるリスクは下げられる。そのためには、ネットの口コミや大学のキャリアセンターなど得られる情報を駆使すべきだと今野氏は言う。
それでも、もしブラック企業に入ってしまった場合はどうすべきか。もっとも身近にあるのは、都道府県が設置する「労働相談情報センター」だと前出・笹山弁護士が言う。
「具体的な労働状況を聞いたうえで、訴訟を含めた対策や段取りを斡旋してくれる機関。国の労働局よりも実際的なところがよい」
今野氏は、まずは労働時間や上司の発言など、とにかく日々の記録をつけることが大事だという。
「そうしておけば、かりに裁判などになった際、法律が味方してくれることもある。責められてもむやみに『自分が悪い』と思い込まず、客観的な記録をつけることです」
若者を食い潰す企業が待ち構えている現在、その真贋を見抜くことがまずは社会人の第一歩なのかもしれない。
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