「ゴールド・ラッシュ」というと、遠く海の向こうの出来事のように思うが、本書で描かれるのは一攫千金を夢見て殺到した人々の冒険劇であり、愛する人を奪われた人々の復讐劇でもある。最後まで目が離せない血湧き肉躍る物語だ。
江戸時代末期、小笠原の父島に漂着した娘と島に移住していたアメリカの元捕鯨船乗りの間に生まれた長男・丈二(じようじ)と次男・子温(しおん)。アメリカと日本の血を引く二人は、弱冠二十歳にして捕鯨船フランクリン号の副長を務めるジョン・マンと出会い、島を出て父と同じ船乗りになろう、と決める。
一方、砂金発見の情報を聞きつけた男たちは、こぞって「エル・ドラド(黄金郷)」へと向かう。鯨の乱獲で捕鯨に見切りをつけた者も大勢いるが、一族の拡大を狙う中国人チャンタオと彼の片腕のルーパンは、丈二と子温の素質を見抜いて船に乗せ、小笠原からアメリカへと旅発つ。
腕利きガンマンのリバティー・ジョーは砂金採りのブラナンの元で働くが、ある日金を狙う一味によって妻を殺害される。復讐を誓ったジョー。
いつの時代も、カネと名誉と復讐は人を惹きつけて離さない。その中において、丈二と子温の兄弟の純粋さが際立つ。島の中で生まれ育った二人にとってカネは遊び道具、砂金に踊らされる大人たちと対極にある。
具体的な野望ではなく、生涯のバディとして互いを守り合うこと。父やジョン・マンのような船乗りになり、広い世界を見ることを目指す。そんな真の冒険心を持つ若き二人が、ゴールド・ラッシュを巡る死闘で、しっかりと存在感を見せてくれるのが頼もしい。
またルーパンが新天地で開業した作業着店も興味深い。ゴールド・ラッシュの波を受けて、砂金採りに必要な丈夫な作業着の注文が後を絶たない。砂金を目指すのではなく、砂金の周辺にはすでにビジネスチャンスがあることを素早く嗅ぎ取って商売し、さらに捨てられた捕鯨船の帆布を使って、新しい商品を開発するところも目を瞠(みは)った。
日本・米国・中国のタッグが戦いを挑む極悪集団はそれぞれすこぶるキャラクターが立っていて面白い。卑劣な手段で命を奪い、平気で仲間をも殺(あや)める、一筋縄ではいかない相手に、三カ国タッグチームがいかに勝利を得るかが読みどころ。
小笠原の父島から始まり、桑港(サンフランシスコ)へと向かう物語は、ゆっくりと進んだ船が、中盤から一気に大波に揺られ、ラストの高波へと立ち向かってゆく。
読み終わって、壮大な航海を楽しんだ心地にある。
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『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
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