
ファクシミリで、本書『桑港特急』の解説の依頼書が届くや否や、私の頭の中では、たとえば、エルマー・バーンスタインの「荒野の七人」のテーマのような滅法、威勢のいい西部劇の音楽が鳴り渡り、一瞬にして興奮状態に陥ってしまった。
こうなったらもういけない。
世の中の人は、批評家は冷静かつ客観的に物事を論じるものだ、と考えているかもしれないが、ときには例外というものがある。
私の胸中には、この一巻を読み終えたときの胸のすくような思い、さらには、読み終えてしばらくしてもまだ興奮が醒めやらず、一人、巻頭に掲げられている〈小説の舞台と登場人物表〉を見ながら、にやにやしていた時のことを思い出し、いままた同じことをしているのだから、始末が悪い。
だが、敢えていい訳をさせてもらうならば、世の中には、どんなすれっからしの批評家も夢中にさせてしまう作品というものが存在し、本書は間違いなく、そんな一巻なのである。
ここで少し冷静さを取り戻すために、本書の初出等について記しておけば、この作品は「週刊文春」の二〇一三年六月六日号から二〇一四年の八月七日号にかけて連載され、二〇一五年一月、文藝春秋から刊行された。
そして特筆すべきは、本書が日本人によって書かれた西部小説である、ということだ。西部小説、つまりは、ウェスタンである。
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