山本一力さんの作品といえば、故郷高知の先人、ジョン万次郎を描く『ジョン・マン』を思い浮かべる人も多いだろう。今回の作品の構想が生まれたのも、そのアメリカ取材の過程だった。
「現地に10回行きましたが、19世紀当時のアメリカにとても魅力を感じます。まだ機械がないので、何をするにしても人の力。また、日本も幕末に向かう時代。どちらも自ずと人が主役になるんです」
鎖国状態の当時の日本からアメリカへ行く物語をと考えたときに、小笠原が浮かんだという。
時は1840年代、アメリカ捕鯨船の補給地となっていた小笠原父島。アメリカ人の元航海士を父に、島に流れ着いた日本人を母にもつ10代の兄弟、丈二と子温の夢は船乗りになること。捕鯨船の副長として寄港したジョン万次郎からも大きな刺激を受けた2人は、やがて中国商人の配下ルーパンの船に同乗して、アメリカへ旅立つ。
しかし、いざ到着したサンフランシスコはゴールドラッシュ真っただ中で、捕鯨は完全に下火。兄弟は船乗りから一転、ルーパンの洋品店で働くうちに、妻と友を殺されたガンマン、リバティー・ジョーの仇討ちに協力することに――。
冒険、仇討ちと読者の興味を引き付ける要素が詰まった物語は、500ページ超えのボリュームを感じさせないほど躍動感にあふれている。それは登場人物が魅力的だからだろう。彼らに共通するのは皆、当初の予定とは違う道を歩んでいることだ。
「『こんなはずじゃなかった』という言葉を一生言い続けるのは切ないでしょう。見えてきた現実を拒めばそこまでですが、受容することでその先が開けていくんです」
また、当時は自然に合わせた生活や行動をしていた時代。小笠原で生まれ育った兄弟はじめ、自然には逆らえないという理解が根底にあった。
「与えられた環境の中で判断する経験を重ねていくことで、今何をするべきか、誰を信じるかを見極める本能も研ぎ澄まされていったのでしょう」
そんな彼らは仲間、心酔するボスなど、何があっても揺るがず信じることができるものをもっている。丈二と子温においては兄弟、そして家族だ。
「丈二と子温は互いを100%信頼し合っているし、両親に対しても100%の尊敬と愛を持っている。信じるということは100%自分の中で完結できるので、人に何を言われても関係ないんです。そういう強い想いをもつ人たちに、これからの世の中も物事を形作っていってもらいたいね」
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