直木賞受賞作『あかね空』、人気シリーズ『損料屋喜八郎始末控え』をはじめ、江戸を舞台に人情味あふれる名作を次々と世に送り出してきた山本一力さん。故郷の土佐を出発点にしたライフワーク『ジョン・マン』も巻を重ねているが、新刊『桑港特急』は、江戸時代後期に小笠原の父島に生まれた若き兄弟・丈二と子温が主人公だ。日本のみならず、米国、中国と国境を越えて物語が展開する大スペクタクル長編が誕生した背景を語ってくれた。
――2013年から「週刊文春」で連載された本作ですが、その壮大な構想はどこから生まれたのでしょう?
アメリカを何度も取材で訪ねていると、その周辺で見聞する情報から、色んなアイディアが沸いてくる。かつてサンフランシスコ湾に帆船がいっぱいうち棄てられていたというものも、そんな話のうちのひとつでね。要するに太平洋の捕鯨が駄目になった一方、ゴールドラッシュを目当てに49‘Sたちが、片道切符で西海岸に押し寄せてきていたわけだ。もっとも実際どんな光景だったかは想像がつかなかったところに、アリゾナで巨大な飛行機の墓場というのを見る機会があった。日本じゃ考えられないけれど、片道分の燃料だけで飛んできたジャンボまで棄てられている。それを見た時に、帆船の墓場というものがどんなものかイメージが理解できた。
今度はそれとは全く別の機会に捕鯨関係の取材で小笠原に行った時、島全体のものすごい湿気に驚いたり、船が出港する時に島人たちが海に飛び込んで見送ることに非常に感動したことがあって――その二つの断片から、小笠原生まれの若者がハワイを経由して、サンフランシスコに向かい、そこに棄てられていた船の帆布を使って自分たちのアイディアで商売をはじめる。そんな外への目を向けた日本人がいてもいいじゃないか、と……。
ほかにもアメリカの取材中に行った、19世紀の町並みが今も息づくリオ・ビスタや、小説に登場するノーフォーク、コロマ、オーバーン、それからサンフランシスコが19世紀の中国では「金山」と呼ばれていたという話など、一見、何の関係もなさそうで、その時は自分の頭の引き出しに放り込んでいたものが、書いているうちにうまい具合に小説のピースとなっていったんだ。ただ、どんどん物語が膨らんでいってしまったので、単行本のゲラではずいぶん整理もした。もう一度、物語を編み直したような気もしているね。
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