- 2018.01.20
- 書評
戦争を知る最後の世代の一人としてこれだけは言っておきたい。(抄)
文:田原総一朗 (ジャーナリスト)
『オールド・テロリスト』(村上 龍 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
村上龍氏は凄いストーリーテラーだと、再認識させられた。
この小説の主役である光石幸司の名前が出て来るのは、何と三五六頁である。そして光石自身が登場するのは四〇八頁である。
そのミツイシの口から、彼らの想像を絶する企てが語られるのは四四六頁だ。だが、読者である私は、それまで全く飽きることがなく、物語の展開に、どんどん吸い寄せられていった。
読者のための案内役、というか、物語を展開させているのは、週刊誌が廃刊になって職を失い、女房と娘に逃げられた五四歳のルポ・ライターである。彼は、きわめて常識的な人物で、彼の興味、疑問、不審、恐怖心、それらによって彼が行動することで物語が展開するのだが、彼が常識的な人物なので、彼の反応が読者にわかりやすい。
そのルポ・ライター(セキグチ)が、出版社の元上司から取材を頼まれた。
NHKの西玄関のロビーでテロが起きる、大久保の将棋道場の、セキグチの知り合いという老人から予告があった、というのである。
(中略)
それにしても、この国を破壊するというミツイシたちの憎悪や発想は、決して少数者の妄想の類ではない。
作者の村上龍氏も、意識のどこかに破壊願望があり、だからこそ、そのことをテーマに、これほど長大な小説を書き上げたのであろう。
実は、“朝まで生テレビ”の初期の頃、身体を張って頑張ってくれた、映画監督の大島渚氏も、作家の野坂昭如氏も、昭和の戦争体験者たちであったが、高度成長を成し遂げた現在のこの国について、あらゆることを損か得かでしか判断せず、得をするためには何でもやるという虚飾にまみれている、として破壊願望を隠さなかった。
大島渚氏は、徹底した反国家主義者で、彼の映画に登場する国旗は、日の丸が、赤ではなく黒であった。そして国家権力打倒のために人生を賭けて戦う学生たちに共感する映画や番組をつくりつづけた。
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