書評

“好きなもの”とダメ出しが生んだ、論理とキャラクターの両立

文: 円堂都司昭 (文芸評論家)

『キングレオの冒険』(円居 挽 著)

 円居が本書に盛り込んだ好きなものの一つにあげた「探偵の会社」に関しては、京大ミステリ研の先輩である清涼院流水のJDCシリーズからの影響が大きい。JDCとは日本探偵倶楽部のことであり、集中考疑の鴉城蒼司、神通理気の九十九十九といったぐあいに様々な推理の得意技を持つ探偵たちの集団だ。『コズミック』から始まるJDCシリーズは、風変わりなキャラクターの魅力がある一方、各人の推理術に派手な呼び名がつけられているわりに内実は書かれていなかったので毀誉褒貶があった。

 このため、円居が京大ミステリ研に入る際、好きな作品としてJDCシリーズをあげたら先輩たちの反応が渋かったというエピソードを本人がたびたび話している。ルヴォワール四部作、『キングレオの冒険』、『シャーロック・ノート』など、登場する探偵役たちが強い個性を持ち、キャラクターの魅力だけでなく論理を駆使した弁舌で状況を二転三転させる特有の作風は、JDC的な設定に対する円居流のヴァージョン・アップであるわけだ。

 彼は、本書に盛り込んだ好きな要素として「京都」もあげていた。森見登美彦や万城目学など、怪異やファンタジーを帯びた空間としてこの土地を描く作家は多い。ミステリ研の先輩作家たちも京都で不可思議な事件が発生する話をたくさん書いてきた。円居もデビュー作の『丸太町ルヴォワール』以来、奇妙な出来事が起きる場所として京都を繰り返し選んでいる。大学構内で神出鬼没の営業をする都市伝説的なバーが推理の舞台となる『クローバー・リーフをもう一杯 今宵、謎解きバー「三号館」へ』(二〇一四年。文庫版は『京都なぞとき四季報 町を歩いて不思議なバーへ』に改題)などは、身近に不思議が転がっていそうなこの街の雰囲気がよく描かれている。一連の作品は虚構の度合いが高いけれど、著者自身の記憶や体感が反映された部分もあるだろう。円居が日本探偵公社の本社を京都に置いたのは、JDC本部が京都にあったことを踏襲しただけではないはず。



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キングレオの冒険円居 挽

定価:本体790円+税発売日:2018年04月10日