- 2015.11.10
- インタビュー・対談
京大ミステリ研の先輩・後輩が語る、学生時代の思い出と創作の裏側(後編)
「本の話」編集部
『赤い博物館』 (大山誠一郎 著)/『キングレオの冒険』 (円居挽 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
「京大ミステリ研の先輩・後輩が語る。学生時代の思い出と創作の裏側(前編)」より続く
今年9月に初めて本格警察小説『赤い博物館』を上梓した大山誠一郎さんと、個性的な名探偵が活躍する『キングレオの冒険』を6月に刊行した円居挽さん。京都大学推理小説研究会の先輩・後輩にあたるお二人が、互いの作品のこと、京大推理小説研究会のこと、そしてこれまで多大なる影響と刺激を受けてきた古今のミステリについて語り尽くしました。
ミステリ研の先輩がモデルに
――一方、円居さんの『キングレオの冒険』は、リアリズム的な手法で推理していくのとは対極的な作品ですね。探偵が警察の捜査を正しく導いたり、犯罪者を直接捕まえたりもするという世界で、「日本探偵公社」に所属する天親獅子丸(通称キングレオ)と助手・大河が活躍します。いろいろと趣向が凝らされた作品ですが、発想のきっかけはどういうところにあったのでしょうか。
円居 京都、探偵の会社、シャーロック・ホームズ。自分の好きなものを全部盛り込みました。
――京都が舞台で名探偵がたくさん出てくるといえば、かつてミステリ界を震撼させた清涼院流水さんの「JDCシリーズ」が思い浮かびます。
円居 僕は間違いなくその洗礼を受けていますね。大学に入る前は、清涼院さんの作品が大好きだったんです。ところが、入学してみると、清涼院さんの作品はどうもミステリ研の先輩に嫌われている。はじめはなぜ嫌われているのかわからなかったけど、ミステリ研にいるうちにその理由がやっとわかってきて……。僕は、清涼院作品をどうアップデートしたらミステリ研に受け入れられるか、常にそのことを考えていた気がします。
大山 『キングレオの冒険』は、各篇のタイトルからも事件の内容からも、ホームズものを強く意識していることがわかります。ホームズとワトソンの関係を過剰なほどになぞって、ほとんど戯画的といっていいほど誇張しているところがおもしろいですね。ミステリとして一番の出来は5篇目「悩虚堂の偏屈家」で、よく考えられているなと感心しました。パロディとして最もおもしろかったのは3篇目の「なんたらの紐」。タイトルの意味が明かされたときは、思わず笑ってしまいました。
円居 もとの作品と同じ解決にするわけにはいかないし、原作のネタばらしをせずに原作からどう調理したのかまでわかるように書くのは難しかったですね。
――あの大変ユニークなキャラクターはどのように考えているのですか?
円居 デビュー作の『丸太町ルヴォワール』の時から、作品のメインキャラクターは、大学の先輩や京都で知り合った人がモデルになっています。『キングレオの冒険』の論語なんて、まさにミステリ研の先輩がモデル。最近やっといちからキャラクターを作れるようになってきました。
大山 『シャーロック・ノート』も〈ルヴォワール〉シリーズも、真実の追求よりはむしろ、探偵同士、もしくは名探偵と天才犯罪者の“対決”に主眼がおかれていますね。
円居 真相はひとまず措いておき、探偵vs.犯人の頭脳対決に絞ったほうが小説としておもしろく読ませられるのではないかと思って、対決という点を押し出してみました。
大山 他に、円居さんの作品で言っておきたいのが、作中にちりばめられたミステリマニア向けの遊びです。『シャーロック・ノート』に登場する「現衛庁(げんえいちょう)」は、「幻影城」ですよね? それから、「九哭将」は「ナインテイラーズ」とルビが振ってありますが、これは、「九鳴鐘」のもじりで、ドロシー・L・セイヤーズの『ナイン・テイラーズ』から来ていますよね。
円居 間違いありません。
大山 そして、〈ルヴォワール〉シリーズに登場する「御堂達也」は鮎川哲也の短篇「達也が嗤う」から。他にも、『クローバー・リーフをもう一杯』の中の台詞「御神酒をいかが?」は、E・D・ホックの名探偵サム・ホーソーン医師の口癖、「御神酒をもう一杯どうじゃね?」から、ですよね。
円居 そうです! あえて、不可能犯罪という同じテーマを扱った作品からとってみました。
大山 他にも、挙げたらまだまだきりがありません。
円居 こんなに拾っていただけると、僕としても気持ちがいいです(笑)。
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