- 2018.05.23
- 書評
小説化を躊躇するようなテーマに挑み、先入観による誤読を恐れず、 成功した作品
文:佐藤 優 (作家・元外務省主任分析官)
『さよなら、ニルヴァーナ』(窪 美澄 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
〈僕の見た目はごく普通の十四歳だ。体もきゃしゃで背も高くなかった。
とても人殺しには見えない。こんな子どもがなぜ。
僕に接する大人たちの顔には全員そう書いてあった。
この国で絶対にあってはならないこと。僕がしたことはそういうことだ。
精神科医による面接、問診、心理テスト、知能検査、脳波検査がくり返されたが、意識も清明で精神病でもなかった。年齢相応の知的判断能力があり、心神耗弱の状態でもなかった。その結果が出てから、大人たちはさらに混乱していった。けれど、僕という人間をあらわす言葉のひとつを彼らは見つけた。
「未分化な性衝動と攻撃性の結合」
普通の男の子は成長するにつれ、身近にいる女の子を想像しながらマスターベーションをするのに、僕は動物を殺すところを見たり、実際にすることで快楽を感じていた。ほかにも僕と同じような人がいるのだとばかり思いこんでいた。僕だけ、その方法が違うだなんて。それならば、僕のような人間のことはさっさとあきらめて殺してほしい。僕はそれだけを考えていた。
「……このまま死んでしまいたいです」
家庭裁判所で行われた最後の審判が終わったあとに、そう答えた僕の顔を見て、裁判官がひどく悲しい顔をしたことを覚えている。その顔を見た僕ですら、裁判官という立場にある人が、そんなにストレートに感情を出していいものかと、かすかに動揺したくらいだった。
十四歳の僕を国は殺すことができない。
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