本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
アメリカでの取材に同行して感じた、著者の温かくも厳しい“眼”

アメリカでの取材に同行して感じた、著者の温かくも厳しい“眼”

文:宮田文久 (フリーランス編集者)

『黄金の時』(堂場瞬一 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『黄金の時』(堂場瞬一 著)

 たとえば、アリゾナではスコッツデール・スタジアムでのナイトゲーム、そしてピオリア・スポーツ・コンプレックス(パドレスとマリナーズの春季キャンプ地としても知られる球場)でのデイゲームを観戦したわけですが、そこで行われていたのは、野球の原風景とでも言いたくなるような試合でした。

 メジャーの華やかさとは、とことん異質。近所の人々と(決して「ファン」とは言えない、のんべんだらりとした雰囲気が特徴的)、幾人かのスカウトが見つめる中、まだ何者でもない選手たちが進める静かな試合――。取材最終日にサンフランシスコの住宅街で見かけた少年たちの草野球もそうでしたが、「そうだ、野球というのは、革で出来たボールを投げ、それを木の棒で打ち返すスポーツだった……」と改めて感じ入るほど、素朴さに溢れた風景だったのです。

 そしてその光景を、温かくも厳しい“眼”で見つめる、堂場さんの姿がありました。

 当たり前の話ですが、目の前の視界の中には、『黄金の時』のキャラクターたちはいません。わずか3カ月の青春を燃やし尽くそうとする本谷総一郎も、お調子者のビニーも、マウンド上で苛立つニックも、アスリートとしての黄昏時を過ごすライスも……誰ひとりの姿もなく、「バシッ」「カーンッ」と、メジャーリーガーの卵たちが繰り広げるプレーの音が、淡々と響き渡っていたのでした。

文春文庫
黄金の時
堂場瞬一

定価:748円(税込)発売日:2018年06月08日

ページの先頭へ戻る