- 2018.06.21
- 書評
アメリカでの取材に同行して感じた、著者の温かくも厳しい“眼”
文:宮田文久 (フリーランス編集者)
『黄金の時』(堂場瞬一 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
普段は柔和で話好きの堂場さんですが、球場では、フィールドを、選手の一挙手一投足を、そして観客席の雰囲気を、じっと観察していらっしゃいました。その頭の中ではきっと、登場人物たちの原型がすでに蠢き出していたのでしょう。
そして、魅力的なキャラクターたちが文字になって動き回れば回るほど、私の意識はあの抜けるような現地の青空のもとへと引き戻され、カラリと乾いた「過去からの風」が耳元を吹き抜けていくのを感じるのです。
フィクションだからこそ感じる、生々しい「風」。それはたとえば、小説内のこんな箇所でも表現されています。
サクラメント・ゴールドハンターズの頼れる雑用係、ラッキーが運転する移動バス内の描写は、読者の皆さんの脳裡にも、生き生きとしたものとして刻まれているのではと思います。
取材旅行中、このバス描写の、そして小説全体のヒントとなる話をしてくれたのは、1970年代後半から80年代にかけて、日本のプロ野球・ロッテの強打者として大活躍したレロン・リー氏でした。待ち合わせしたステーキハウスで分厚い肉の塊を頰張りながら、氏は楽し気に、自身がメジャーに昇格する前、60年代後半に所属していたカリフォルニアリーグの話をしてくれました。
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