人生のほろ苦い機微を味わいながら毎日を生きる、あの誰もが知る感覚を、アメリカ野球を見事に“翻訳”した『黄金の時』は描き出しているのだと思います。そしてバラバラだったゴールドハンターズのチームメイトたちが一瞬だけ“シンクロ”する、一度きりの夏の喜びは、「知らない世界」でありながら自分の世界のことのように感じる、小説と私たち読者の関係における“シンクロ”の喜びと、どこか似ている気さえするのです。
そんな喜びに満ちた小説『黄金の時』は、小説の軽やかな最終部で要の目が開かれるように、読者ひとりひとりに「私にとっての黄金時代の始まり」を感じさせてくれます。あなたにとっての「黄金の時」は、これからなのではないか――? そう、そっと、私たちの背中を押してくれるのです。
総一郎が「野球は常に、人を成長させてくれる」と気づいたように――堂場さんの静かな、それでいて熱い野球小説は常に、私たちを成長させてくれるのではないでしょうか。