- 2018.06.21
- 書評
アメリカでの取材に同行して感じた、著者の温かくも厳しい“眼”
文:宮田文久 (フリーランス編集者)
『黄金の時』(堂場瞬一 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
こうした堂場さんの手つきによって私たち読者がありありと思い浮かべるのは、日本人大リーガー第一号である村上雅則以前の“幻”の選手の姿であり、多くの読者が触れたことのない時代の空気や、土地の風景です。
これはきっと堂場さんが翻訳小説をお好きなこと、その豊かさを自身の作品の中で表現しようとしていらっしゃることと関係していると感じます。
堂場さんは常々、翻訳小説を読む楽しみは「知らない世界を知ること」だといった旨の発言をされています。私たちが『黄金の時』から受け取る豊かさも、まさにこの「知らない世界を知ること」の楽しみなのではないでしょうか。
そして私たちは、「知らない世界」にいるはずの登場人物たち、そのひとりひとりの人生の喜怒哀楽を、我が事のように感じ取ることができます。
誰の人生にもきっと、オレンジジュースを喉に流し込んだ総一郎のあの朝のように、未知の日々への扉を開ける瞬間があるはずです。袂を分かった人間と、いつの間にか――本谷要が、総一郎も食べたメキシコ料理のエンチラーダを、知らず知らず口にしていたように――同じ道を歩んでいることもあるでしょう。
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