薄茶色の髪に陶器のように白い肌、整った目鼻立ちの、それは美しい少年であり、この世界の王太子だった。
ありすをこの世界に招いた因果により、蛙に姿を変えられたものの、ありすがその正体に気付いたことで、呪いは解けて、元の少年の姿に戻ったのだ。
「ハチス。ううん、蓮、どうして、また蛙の姿に戻っちゃったの?」
ありすが勢いよく体を起こすと、蓮は呆れたように目を細める。「寝ぼけてんなよ、ありす。ナツメの言いつけだろ」
ありすは、あっ、と口に手を当てた。
ナツメとは、ハチス同様、この町に来た時から側にいてくれている存在だ。
普段はうさぎの姿をしているが、実際は、ありすを迎えに来た初老の紳士であり、蓮の執事でもある。
そんなナツメは、蓮にこのような注意をしたのだ。
『眠っているありす様に近付く時は、蛙の姿になるように』
因果によって動物になってしまった者が、その呪いから解けた場合、その後は自らの意志で姿を変化させることができる。
つまり、蛙の姿になったり、人の姿に戻ったりできるのだ。
蓮は、ナツメの言いつけに従い、ありすのベッドに近付く時は、蛙の姿に変わるようにしていた。
「そうは言っても、俺たちは『婚約者』同士なのに、うるせーよな」
蓮は小さな蛙の姿のまま、ありすのベッドに腰を掛けて、面白くなさそうに腕を組む。
幼い頃、ありすの両親が元気で、まだ京都に住んでいた頃に、蓮はこの世界から弾き飛ばされて、人間の世界に来ていた。
出会いは、小学校一年生の夏休み。
下鴨神社の境内だった。
最初、ありすを前に警戒心をあらわにしていた蓮だったが、すぐに打ち解けて、二人は仲良くなり、毎日のように遊ぶようになった。
ありすにとって、遥か昔の出来事なのだが、あの日のことを鮮明に思い出せる。
下鴨神社の境内を東に出て、小道を走り、高野川に出ると、夕焼け空が広がっていた。
橙色と桃色が重なり合う中、白い月が浮かんでいる。
蓮の薄茶色の髪が、夕陽に透けてとても美しかった。
彼は自分が、遠くから来ていて、帰らなくてはならない旨を伝えた上で、こう告げた。
『ありがとう、ありす。大きくなったら、ありすを迎えに行くから。そうしたら――結婚しよう』
それは、幼いプロポーズ。
ありすは涙を滲ませながら、『うん』と強く頷いた。
そっと重ね合わせた、小さな唇。
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