「――っ」
突然現われた美青年を前に、ありすは絶句した。「あらためて、おはよう、ありす」
蓮は、ありすの頬に手を添えて、にこりと微笑む。
ありすは何も言えずに、後退りをした。
「どうしたんだよ、ありす?」
端整な顔を近付ける蓮に、ありすは手をかざす。
「や、あの、すみません、それ以上は……」
「はぁ?」
すると、ドアの隙間からナツメが顔を出す。
その長い耳は、呆れ切ったように垂れていた。
「ですから、蓮様。寝室に入る時は、蛙の姿でいなさいと言ったでしょう?」
「『寝ているありすに近付く時は』って話で、今はもう、ありすが起きたんだからいいだろ」
「それでは、撤回します。ありす様の寝室に入る時は、寝ていようが起きていようが、蛙の姿でいるように」
ナツメは手を腰に当てて、ビシッと告げる。
「はっ、なんでだよ」
「まったく、あなたは……今のご自分の姿を確認してはいかがですか?」
「自分の姿?」
蓮は自分の手に目を落とし、「んん?」と眉根を寄せる。
「手がデカい……」
そうつぶやいた後、おっ、と蓮は顔を明るくさせた。
「やった、元に戻れた。大人だ! これで、ありすが十六になったらすぐにでも結婚できるな!」
詰め寄る蓮に、ありすは「きゃあ」と声を上げる。
「なんで、嫌がるんだよ」
「蓮様、いいから、あなたはまず、寝室を出てください」
ナツメは、蓮の耳をつかんで部屋の外へと連れだした。
寝室を一歩外に出るなり、蓮の姿はまるで空気でも抜けたかのように、小さな少年に変わってしまった。
一気に視界が変わり、着ていた作務衣がぶかぶかになったことで、自分が小さくなったことに気付いたのだろう、蓮は自分の紅葉のような手を見詰める。
「……一体どういうことだ?」
「それだけあなたが、とても正直な人間だということですよ」
「つまり、寝室では『大人でいたい』って心から思ってるってことなんだな。まっ、全然問題ないな、ありす」
ぽんっ、と手を打つ蓮に、ありすは「もうっ」と思わずベッドの上のクッションを投げつけて、毛布をかぶる。
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