見事、クッションは顔にクリーンヒットし、蓮は解せないようにナツメを見た。
「どうして、クッションを投げつけられるんだ?」
「あなたがそれだけデリカシーのない人間だからですよ」
ナツメは、やれやれ、と肩をすくめる。
蓮は、ふーん、とさして興味なさそうに相槌をうち、すぐにありすに向かって声を張り上げる。
「おい、ありす! それより、今日は総合卸問屋に行くんだろ!?」
その言葉にありすは「そうだった」と顔を出した。
「朝イチで行った方が、良い物を仕入れられるって、昨日話してたのに」
「ごめん。すぐに用意するから、下で待ってて」
おう! と蓮が片手を上げて、ナツメと共に階段を下りていく。
ありすは、「そうだった」と頭から水色のワンピースをかぶるように着る。
「本の在庫がなくなってきたから、卸問屋に行こうって話していたんだ」
廊下の突き当りにある洗面所へと走り、そのままの勢いでばしゃばしゃと顔を洗い、歯を磨く。
はねた髪を整える時間がないので、簡単にみつあみのおさげにして白いエプロンを身に着けた。
よし、と頷いて、階段を駆け下りる。
「ごめん、行こうか!」
「おい、朝飯は?」
「そんな時間ないよ」
ありすは、急いでショルダーバッグを肩から下げた。
総合卸問屋は、夜明けと共に開店するらしい。
まだ早朝だが、しっかり太陽は昇っている。
「嘘だろ、腹ペコだよ。腹が減っては戦はできねーぞ」
「仕方ありませんね。サンドイッチを作りましたので、食べながら向かいましょうか」
そう言ってナツメは、作ったサンドイッチをバスケットの中に詰めた。
「歩きながら食うのかよ、行儀悪いなぁ」
「それ、蓮が言う?」
目を剥くありすに、ナツメがぷっと噴き出す。
京洛の森にある書店『ありす堂』の店長・ありすは、良い作品を仕入れるために、いざ出陣だ。
それは、ありすの新しい一日の始まり。
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