どう作品を書き分ける?
林 それにしても、髙見澤さんはよくデビュー当時のビジュアルを保っていますよね。
髙見澤 え、そうですか。
林 だって、この年齢だとバラエティー番組で「あの人はいま」とかに出てもおかしくないんですよ。六十過ぎるとそういう方をいっぱい見聞きするのに、髙見澤さんは元の格好のままでテレビに出て、毎年コンサートをやっている。
髙見澤 一人じゃ無理だったかもしれません。三人だったから長く続けることができたと思います。
林 でも、バンドって解散するじゃないですか。続いてもメンバーが悪いことをして捕まったり……。
髙見澤 僕らは、いい意味でぬるま湯の関係ですね。それに、捕まるような悪いことをする勇気のある奴もいない(笑)。ほんと普通の高校生が大学生になってデビューして、そのまま今に至ってますから。三人とも次男坊で「俺が俺が」って我を張る奴もいない。とにかく「どうぞ、どうぞ」の世界で、僕が曲を作っても、誰もメインで歌いたがらないんですよ。
林 そんなことあるんですか(笑)。
髙見澤 だから、三人でそれぞれ歌って、バンドの中でオーディションすることもあるんです。直近のシングルも三人とも歌えるキーだったので、久しぶりにオーディションでボーカルを選びました。そんな感じだから、続けてこれたんでしょうね。
林 音楽活動が忙しい中で、いつ小説は書かれたのですか。
髙見澤 新幹線とか、楽屋でメイク中とか。とにかく空いている時間ですね。
林 パソコンだと新幹線で書けていいですね。私は手書きだから、隣に人がいると原稿用紙を取り出しにくい。この頃はそんなこと言ってられなくて、スタバの二階にいってコーヒー飲みながらパッパッパッて書くこともあるけど。
髙見澤 それはすごいなぁ。決まった場所で書かれていると思いました。
林 仕事場はありますけど、テレビを見ている子どもの横の、ダイニングテーブルで書いたり。
髙見澤 えぇ!
林 それも官能的なシーン。
髙見澤 すごい! 才能ですねぇ。
林 だから、ダイニングで話しかけられても答えられない。子どもに「人の話ちゃんと聞いてない」って叱られながら書いてます。
髙見澤 林さんのデビュー作『ルンルンを買っておうちに帰ろう』も発売直後に、ツアー中にホテルで読んだのを覚えてます。ひとつ伺ってみたかったのは、以来たくさんの作品を出される中で、どうやって書き分けているんですか。
林 それは、ミュージシャンの方と同じですよ。みなさんが曲を作るみたいに、私も一生懸命湧き出るものをなんとか文字にしていく。それだけですよ。
髙見澤 作品の発想というのはポーンと出てくるもんなんですか。
林 人に会ったりしながら、「こういうの書きたいな」ってことを温めておく。作家は受注産業ですから。それで、注文が来たときに「こういうもの書きたいのだけど」と言うときもありますし、編集者が企画を出してくれることもあります。
髙見澤 銀行マンの家族の崩壊を描いた『聖家族のランチ』なんて、もうすごい描写だなと。こういう作品も書かれるんだと。ショッキングな展開で、ドキドキしながら読みました。
林 ありがとうございます。あの作品は、途中でどうしていいのか分からないから、もうヤケクソで(笑)。
髙見澤 読んでいて「えぇ、マジ?」という感覚になりました。
林 ちょうどそういうものが書きたい時期があった。いま本が売れない世の中なので、いろんな変化球を投げてみる、という感じですね。だから、髙見澤さんのような、ほかの分野で認められている人が小説に参入して、才能を見せつけてくれるのは、私たちにとっても刺激的。負けられないなって思いますよ。
髙見澤 いえいえ、とんでもない。最近本を読まない世代が増えているのは、自分としては淋しい。やっぱり読んでもらいたいですね。
林 『音叉』も髙見澤ファンにプラスして、私たちの世代より若い人にも読んでもらえたらいいですね。次回作の構想はあるんですか?
髙見澤 警察小説もよく読むので、雅彦の兄が司法試験に受かって検事になるという話なんてどうだろうかと思ったり、僕の兄が以前にドイツに駐在していて、何度も行ったことがあるので、壁のあった頃のベルリンとかも知っているんです。そういう海外を舞台にした話を書いても面白いかなと思っています。
林 村上龍さんの描写が注目を浴びたのは美大生らしい色彩感覚が新鮮だったから。音楽をやる方にも、他の人にはかなわない描写というものがあると思うんですよ。
髙見澤 そこは頑張りたいですね。次は照れずに大胆に、書いてみようと思います(笑)。
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