出口さんが構想されるスケールの大きい世界史と私の研究には響き合うものがあります。対談の最中に、仏教遺跡調査のためにイランのマラーゲに出向いたときのことを思い出していました。私は仏教文化学を専門とし、インドのガンジス川流域に生まれた仏教が何故にアジア各地域に広まったかを研究しています。権力者や商人の仏教帰依をユーラシアという観点から捉えているうちに、仏教西伝に関心が向き、イランにまで足を踏み入れました(拙稿「イランの仏教遺跡」『印度學佛教學研究』第58巻第1号)。
マラーゲには復元された天文台があります。コペルニクスやガリレオが現れる以前にイラン(ペルシャ)で天文学が発展を遂げていたのです。その天文学が中国にもたらされ、クビライが大都(いまの北京)に天文台を建て、授時暦という暦ができるのです(本書70頁に言及あり)。
そういったことはほとんど高校の世界史では習いません。イランの学術と中国の学術をつないだのがモンゴル帝国であったことはこれまであまり注目されてはいませんでした。マラーゲの天文台に立ったとき、隠れていた世界史の片鱗にふれ、感動してしまいました。出口さんとの語らいで、その時の感覚がまざまざと甦ってきたのです。
本書は、世界史に登場する人物の中から優れたリーダーを出口さんが選んだものです。興味深い人物がズラリと並んでいます。人物の背景を知ることで世界史の流れに入れます。世界の歴史は繫がっているなと実感できます。
著者が最初に挙げた人物はなんとバイバルス。日本人には馴染みがありません。そこがミソです。トルコ系キプチャク人の彼はマムルーク朝第五代のスルタン。不敗を誇ったモンゴル軍を破り、十字軍も退けた軍事の天才です。部下からも民衆からも愛されたイスラム世界の英雄です。出口さんがバイバルスに着眼した背景には、「世界史のカギはユーラシア大草原にあり」(本書第1部のタイトル)との認識があります。
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『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
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