書評

「観」のスペシャリスト

文: 入澤 崇 (龍谷大学学長)

『世界史の10人』(出口治明 著)

『世界史の10人』(出口治明 著)

 ユーラシアという視点で日本史をみる出口さんの姿勢がみえる箇所です。従来、元寇というのは、モンゴル民族の元が高麗と連合して日本を攻めた戦争で、鎌倉武士がそれを退け、神風が吹いたことにより日本が元軍に侵略されずにすんだと理解されてきました。

 ところが、モンゴルに攻撃を受けた東南アジア諸地域はビルマのパガン朝を除くと、ことごとく侵略をはね返しているのです。日本だけ神風が吹いたわけではないのです。出口さんはこうした元軍の動きは軍人の失業対策ではなかったかと見ます。日本と元との交易量が増えていることにも留意しています。

 三番目はムガール朝を創始したバーブルです。ムガール朝といえば十四世紀のモンゴル系イスラムの大帝国。バーブルはティムール朝の直系の子孫であり、母方に、チンギス・カアンの血を引く人物です。出口さんは、サマルカンドを捨ててインドを目指したバーブルの決断力に注目します。

 さらには自叙伝『バーブル・ナーマ』の水準の高さに目を見張ります。間野英二先生(京都大学名誉教授)が翻訳された『バーブル・ナーマ』をしっかり読み込んでおられます。バーブルの人間性と生き方、出口さんはそこにこそリーダーの資質を見てとるのです。

 これまでとかくマイナー視されがちだった遊牧民に光をあて、第2部の「東も西も『五胡十六国』」でもそれは続き、四番目のキーパーソンとして女性権力者の武則天(則天武后)を取り上げます。

 中国に流入してきた遊牧諸部族の中で最後に生き残ったのが鮮卑の一部族、拓跋部であったこと、武則天はその流れにあったことが語られ、北魏・隋・唐のことを総称して「拓跋国家」と呼ぶ説が紹介されています。読者は俄然、自分の抱いている中国史の見方が泡立つのを覚えるかと思います。



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