- 2018.09.24
- 書評
アメリカ生まれの「HONKAKU」ミステリー
文:編集部
『数字を一つ思い浮かべろ』(ジョン・ヴァードン 著 浜野アキオ 訳)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
しかし、本書にはこうした「本格ミステリ的な妙味のある現代ミステリ」よりも、さらに一歩踏み込んだ気配が漂っています。より古典的なセンスとでもいえばいいでしょうか。本書を読みながら筆者が思い出していたのは、奇術師でもあった本格ミステリ作家、クレイトン・ロースンの作品でした。
著者ジョン・ヴァードンは広告業界で働いたのち、夫人とともにニューヨーク州のキャッツキル山脈にほど近い山間に移住(本書の主人公デイヴ・ガーニーの住まいと同じ地域です)、これまでとまったく違う仕事をしたいという思いから、素朴でシンプルさを旨とするシェーカー家具の製作をはじめます。こうして大自然の中で静かに暮らす日々に、ヴァードンはさまざまなミステリを濫読、もっとも心を惹かれたのが「コナン・ドイルやロス・マクドナルドからレジナルド・ヒルにまでわたる古典的な探偵小説」であり、個々の作品に惹かれるだけでなく、その「形式」、「隠された犯罪を構築して、徐々にそれを明かしていくメカニズム」にも大いに魅了されたと語っています。
ヴァードンが影響源として名前を挙げている作家は、さきに挙げた作家のほかにレイモンド・チャンドラーがあるくらいで、いわゆる黄金時代の古典的な本格ミステリについて直接的には語っていません。しかし、自分を魅了したミステリを「classic detective story」という言葉で呼んでいるのは興味深い点です。アメリカのエンタテインメント出版の現場では、日本でいう「ミステリ」は「thriller」「crime fiction」「mystery」と呼ばれるのが主流であるのに、いまではあまりいわれなくなった「detective story」という言葉を(さらにそこに「classic」の一語まで加えて)愛着をこめて使っているのは、ヴァードンが古典的な謎解き小説――日本でいう「本格ミステリ」――に自覚的であることを暗示します。
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