- 2018.09.11
- 書評
圧倒的な森の気配と、八重の花のように開花し続ける物語
文:池澤春菜 (声優・エッセイスト)
『薫香のカナピウム』(上田早夕里 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
本書を読んだ時に蘇ってきたのは、今度は森の気配。南の島の、あの生きる力に充ち満ちた、図々しいほどの植物たち。みっちりと空間を埋め、空気を芳香物質と胞子で満たし、伸びて伸びて、横溢するあの緑。日が暮れた後の、見えないけれど、そこに大きな命の塊がいる、そしてこちらをうっすら窺っている視線の重さ。圧倒的なあの匂い。
たぶん、この海と森の記憶は多くの人が、記憶のどこかに持っているのではないかと思います。でも、その懐かしさ、既視感をベースにしながら、想像を遥かに超える物語を紡ぎ出すのが上田さん。鼻の奥に香る緑の香りを懐かしく思いながらページをめくるうちに、最初のびっくりに遭遇する。ギエンという猿のような生き物、これはもう完全にわたしたちの知っている地球の生き物ではない。この認識がずれる瞬間のぞくりとする気持ちよさ。
その後も、わたしたちが少し物語に追いつく度に、とんでもない爆弾が弾けては、認識を打ち砕いていく。だって‼ 愛琉たちが○○サイズだなんて‼ そして、鷹風が○○だなんて‼ えええ、妊娠は○で⁉ 最初に読んだ時、ここで衝撃のあまり一度本を閉じ、お茶をいれ、一息ついて、覚悟を決めてから続きを読んだのを覚えています。きっと、皆様も、ですよね?(もしかしたら、そこで動揺して解説から読み始めた方もいらっしゃる?)
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