- 2018.09.11
- 書評
圧倒的な森の気配と、八重の花のように開花し続ける物語
文:池澤春菜 (声優・エッセイスト)
『薫香のカナピウム』(上田早夕里 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
上田早夕里さんは兵庫県・神戸市生まれ。二〇〇三年に『火星ダーク・バラード』で第四回小松左京賞を受賞して作家デビューされました。
『魚舟・獣舟』『華竜の宮』『深紅の碑文』などの重厚なオーシャンクロニクル・シリーズが代表作ですが、その一方で『ラ・パティスリー』を始めとする軽快なパティシエ小説、妖怪ファンタジー『妖怪探偵・百目』シリーズ、直木賞候補になった『破滅の王』と、ジャンルをまたいで大活躍。いずれも、豊かなイマジネーションと、緻密な構成、そして命や生きることが根底に流れる傑作揃いです。本書が初上田という方は、他の作品も手に取ってみて下さい。
さて、森を舞台にしたSFには、何作か素晴らしい先輩がいます。例えば、ラリイ・ニーヴン『インテグラル・ツリー』、ブライアン・オールディス『地球の長い午後』、エイミー・トムスン『緑の少女』。いずれも変容した森の姿がいきいきと描き出された傑作です。浄化装置としての森ならば、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』も忘れる訳にはいきません。
『薫香のカナピウム』をぜひこの一角に、私的世界五大森SF小説として奉りたい、と思います。
いつか、愛琉たちの、もしくはその子孫たちの物語を読めますように。オーシャンクロニクルと並ぶ、フォレストクロニクルにならないかな。
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