書評

圧倒的な森の気配と、八重の花のように開花し続ける物語

文: 池澤春菜 (声優・エッセイスト)

『薫香のカナピウム』(上田早夕里 著)

『薫香のカナピウム』(上田早夕里 著)

 物語は八重の花のように開花していきます。開く度に花はその装いを変え、最後にその芯に見えるのは……。

 結末はけして楽観的ではありません。愛琉たちの今後はとても厳しいものになるはずです。今までの牧歌的な日々は、いわばカナピウムというガラスの温室があったからこそ。それでも、愛琉たちは外に出る道を選んだ。愛琉と真逆の道を選んだ理麻の選択も、また違う意味で厳しいものになるでしょう。どちらの選択肢も間違っていない、そしてきっと正しくもない。生物としての人間と、文明を持った存在としての人間の求めるものは、時に相克します。

 愛琉のしなやかな強さ、鷹風の凜とした強さ、そして二人の中に残るオーキッドのしたたかな強さは、血と泥にまみれながらも、ヒトが用意したのではない未来をつかみ取っていくことでしょう。理麻の秘められた強さもまた、新しい人類を作りあげていくはず。たくさんの選択、たくさんの未来、命を賭けてのトライアンドエラーは、場所がどこであろうと、命の持つ基本的な力。

薫香のカナピウム上田早夕里

定価:本体780円+税発売日:2018年09月04日


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