書評

科学史に残る不正事件に記者はどう立ち向かったか?

文: 緑 慎也 (サイエンスライター)

『捏造の科学者』(須田桃子 著)

『捏造の科学者』(須田桃子 著)

《「すぐ若山さんに電話して!」。永山デスクの声が飛ぶ。(略)二回目のトライで携帯電話がつながった。受話器を押さえ、「つながりました!」と叫ぶ。永山デスクの指示で、八田記者が朝刊一面用の原稿を書き始めた》(七二頁)

 と須田氏がこの日の一コマを描いているように、事態展開の速さは本当に凄まじかった。そんな中、重宝されるのは信頼に足る情報発信者である。私が当時、日常的にチェックしていたのは、フリーのサイエンスライターの片瀬久美子氏、日経サイエンス編集部の古田彩氏(現・同誌編集長)と詫摩雅子氏(現・フリー)、そして毎日新聞社科学環境部の須田氏の書いたものだった。

「毎日新聞の須田です」

 その声が響くと、人であふれかえる記者会見場の空気が一瞬で静まるように感じられた。決して詰問調ではない。須田氏は小保方氏らの実験状況、元データと論文との整合性、あるいは理化学研究所の運営上の問題点について淡々と問いを投げるだけである。しかし、その内容は的を射ており、回答者をいつも緊張させているように感じられた。今から須田氏と回答者との真剣勝負がはじまる。そんな予感が記者会見場の雰囲気を変えるのである。


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捏造の科学者須田桃子

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