四月九日に小保方氏は記者会見の冒頭で、「私の不注意、不勉強、未熟さ故に(略)多数の不備が生まれてしまったことを大変情けなく、申し訳なく思っております」と発言した。神妙な面持ちで謝罪したことをテレビ画面で確認して、私はまずまずの好感を持ったものだ。しかし、司会者に最初に当てられた須田氏の質問によって私は問題の本質に目を向けることができた。一八一頁にそのやりとりが記されているが、あらためて文字で読むと、小保方氏の未熟さが深刻なレベルに達していることがわかる。実験条件の違いに無頓着で、元データをたどることもなく、他人にわかる記録も付けていなかったのだ。未熟だというなら、新現象を発見する自らの能力にも疑問をもってしかるべきだったと思う。仮にSTAP細胞が存在するとしても、未熟な自分にそれを見つける能力があったのか、と。
記者会見場や新聞紙面がリング上の試合とすれば、メール、電話、対面による取材はトレーニングと言える。本書を読むと、須田氏が、苦しみ、迷いながらも、諦めることなく鍛錬に励んでいたことがわかる。
科学的な疑義に関する説明を求める須田氏から殺意を読み取っていたらしい筆頭著者を除き、共著者は須田氏の問い合わせを無視することはなかった。とはいえ丹羽仁史氏、笹井芳樹氏とのやりとりは、厳しいトレーニングだったと思われる。彼らは須田氏を、そして世間を誤った理解へと誘導するかのようなメッセージを繰り返し発していたからだ。特に体調を崩し、八月には自殺してしまう笹井氏とのメールのやりとりは苦渋に満ちており、須田氏にとって大きな試練だったに違いない。
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