掉尾を飾る「消えた女」の主人公は、六十七歳で東京郊外の一軒家で静かに気ままに暮らしていた。だが、そんな生活が乱れたのは、ある女が自分の前から消えたせいだった。コンビニで働く四十二歳の女性だが、あるとき仕事の帰りに〈私〉の家により、柿とハイライトと住宅地図のコピーを残して去っていった。そのままコンビニも辞め、自宅アパートも引き払っていた。女は消えたのだ。〈私〉は地図をたよりに彼女を探していった。
消えた女の行方探しは私立探偵小説の定番だが、ここで行き当たったのは、〈私〉自身の過去ともつながる、まさかの真実だった。
本書は六つの短編が並んでいるが、連作集ではなく、それぞれが独立した物語だ。それでもなんとなく共通する要素がある。最初「怒鳴り癖」をはじめ、高齢になってもなお困った性格をもてあます男がトラブルに立ち向かう話をそろえた作品集かと思っていたが、むしろ家族と対立したり折り合いが悪かったりする女性のエピソードがいくつも並んでいることに気がついた。中年をすぎて老境に入った男たちのままならぬ現実もさることながら、なにか読み終えてしみじみとしてしまうのは、いくつものトラブルの過程を経て、これまで見えなかった哀しい女性の横顔が現れることにあるのかもしれない。
女の気持ちがいつまで経っても分からない男性読者はもちろんのことだが、本書は性別年齢を問わず愉しめる短編集だろう。
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