「押入」の主人公は、ぐっと年齢が若返って三十七歳。大手ビール会社の営業部員である。ひとつ年下の妻と十一歳の娘、そして妻の母親と四人で暮らしている。現在〈私〉が気がかりなのは、娘が異様な態度を取り始めたことだった。大地震が起こってから、異常なまでに押入を怖がるようになったのだ。それから一年と九ヶ月がすぎ、〈私〉は銀座にある小さなスナックで飲んだとき、泥酔したホステスを家まで送り届け介抱しなくてはならなくなった。そのときに銀行の利用明細を紛失したのを気にしていたが、やがて強盗が家に侵入するという事件が起きた。
こちらの主人公は、他人から見ればなんでもないことまで気にし続け、ひとりで思い悩んでしまう極度の心配性だ。娘にも同じ性格が遺伝しないかということまで心配してしまう。「怒鳴り癖」「通報者」に連なる家族小説であり、娘が「押入」をこわがる原因を探すミステリー、そして見かけだけでは分からない人の一面を知る物語でもあるだろう。
「マンションは生きている」の主人公は、都内の一等地にあるマンションの管理人で六十六歳になる男性だ。あるときマンションのロビーで中学生の女の子が毛布をかぶって寝転がっていた。母親と喧嘩した彼女は「家出したい」という。親に連絡して、とりあえず騒ぎは片付いたと思ったところ、こんどは個人的な問題が浮上してきた。〈私〉は三十一歳のとき、最初の妻と離婚した。そんな過去が意外なかたちで迫ってきたのだ。
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