ご存じの通り、作者の藤田宜永はこれまで探偵小説、ハードボイルド、犯罪サスペンス、冒険小説などと呼ばれるジャンルをはじめ、大人の恋愛小説、ユーモアがあって心あたたまる家族小説など、幅広い作風で作品を発表し続けてきた。近年では〈探偵・竹花〉シリーズ(最新作は『探偵・竹花 女神』光文社)を書き継ぐ一方、単発の犯罪サスペンス『亡者たちの切り札』(祥伝社)を発表するかと思えば、大雪のなかのドラマを描いた短編集『大雪物語』(講談社)で吉川英治文学賞を受賞した。最近の藤田宜永作品で本書『怒鳴り癖』ともっとも作風が近いのは、同じく六つの短編が収められた『わかって下さい』(新潮社)だと思うものの、ジャンルのまったく異なる小説を読んでいても共通した読み心地を感じるのは、人と時代と場所をとらえたうえで、作者特有の視線で人の心の機微をしっかりと描いているからだろうか。
先に、藤田宜永作品には作者の分身と思える主人公や同年代の男が登場すると書いたが、二〇一八年七月に発表した長編『彼女の恐喝』(実業之日本社)は、六本木のクラブでホステスのアルバイトをしている女子大生を主人公とした犯罪小説だった。ぐいぐいとページをめくらせる緊迫した心理サスペンスのなかに、やはり藤田宜永ならではの男女関係が物語られているように感じた。
この短編集を気に入った方は、ぜひほかの作品にも手をのばしてほしい。
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