何も実質的な仕事はしていなくても、みんなが頭を下げる。社内外での名望を毎日肌で感じることができる。だから現在の位置エネルギーを維持するのに汲々とする。こうなってしまっては、もはや本当の意味での経営者ではない。実にさびしい話だ――という話をしていたら、ある経営者(三角形タイプ)から「それはキミが偉くなったことがないからわからないんだよ!」と叱られたことがある。確かにその通り。うまいことを言う。それほど位置エネルギーは人間にとって魅力がある(らしい)。だから、多くの人はこの本能的宿痾(しゆくあ)から逃れられない。
本書に収められた4つの短編は、いずれも三角形の経営者の悲哀と寂寥の物語である。それが証拠に、ジャンルとしては「ビジネス小説」なのだが、ビジネスの中身の話はほとんど出てこない。組織の中でのポストを巡る「仁義なき戦い」と、それにまつわる恨み妬(ねた)み嫉(そね)みの話に終始する。
「緊急重役会」の主人公である恩地は、位置エネルギーに取り憑かれた男である。人間ドックを受診した際、過去の入院者の署名簿を見ても、肩書ばかりに目が行ってしまう。名も知らぬ会社の社長が「××会社社長」と記しているのを見て恩地は思う。
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