かつて瞬間湯沸かし器と恐れられた父の、その唐突なエネルギーと破壊力に抑圧されていた阿川佐和子という圧力釜が、突然釜の中の圧力を飽和状態にまで高めて爆発し、釜のフタを破壊し上にのっていた湯沸かし器をぶっとばし、聞く力を武器にこの世にいきなり踊り出た事態に、僕は殆んど呆気にとられていた。
僕にもかなり瞬間湯沸かし器の所がある。
前触れもなく突然爆発し、周囲を呆然とさせることがある。だから大先生の気持ちがよく判る。
瞬間湯沸かし器には湯沸かし器なりの、怒りの三段論法というものがあって、AがBだからBはCとなり、CはDとなって「判らんか‼」となるのだ。だがその内心の展開の速さが人に伝わらないから、「どうして? 何を怒ってるの?」となる。それを一々説明するのは、腹立たしいし馬鹿々々しい。そこで湯沸かし器は孤独な自己嫌悪に落込むのだ。
姫よ。
あなたも大先生の血を引いているから、いずれはそうなる。老いてそうなる。老人ホームの孤室でそうなる。その日を愉しみに待っていよう。
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