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家を買って猫を飼ったら、もう結婚できない!?   小手鞠るいインタビュー『瞳のなかの幸福』

家を買って猫を飼ったら、もう結婚できない!?   小手鞠るいインタビュー『瞳のなかの幸福』

幸福の意味を問い直す書き下ろし長編小説


ジャンル : #小説

『瞳のなかの幸福』(小手鞠るい 著)

――この物語を通して「幸福」について深い考察がされているように感じました。『瞳のなかの幸福』を書き始める前と後で、小手鞠さんのなかで幸福の捉え方は変わりましたか?

まず、書き始める前や書いているさいちゅうは幸福とは「自分の手で築けるもの」だという意識が強かったのです。主人公は、幸せになるために家を手に入れ、さらに猫と巡り合って、いっそう幸せは、確かなものになります。最初に書き上がったものは幸福を手にした女性のハッピーエンドの物語でした。

しかし、書き終えて少し時間が経ってから「これはちょっと違うかも」と疑問の芽が芽生えてきました。もしかしたら、幸福とはもっと脆くて、儚くて、いつ壊れてしまうか、まったく先の見えないものなのではないか、と。これは、ネガティブな意味では決してなくて、まずハッピーエンドの小説を書き上げてみたからこそ、ごく自然にそのように思ったのです。

私自身、13年ほど前に愛猫を亡くすという悲しみを経験しているのですが、猫に先立たれたとき、それまで手もとにあったはずの幸福が、ガラガラと崩れ去り、跡形もなく、影も形もなくなっていることを痛いほど実感しました。ああ、あれが、幸福の実体だったなぁ、と思い出したのです。そして、もう一度、書き上げた小説を読み直してみたところ、そのような幸福の姿が描けていないと気づきました。

最初にもどって、書き直しました。その結果、幸福とは脆いものである、儚いものである、だからこそ、その幸福はかけがえのないものであり、一瞬一瞬が、光り輝いているものなのだということが、作品を通してはっきりと見えてきました。

――この作品の最後の章で起こるある事件が、小手鞠さんの思う「幸福」を見事に表していました。

幸福とは、与えられるものではなく、つかむものだと思うのですが、つかんだ幸福に永遠性はありません。幸福とは失われる運命にある、ということを自覚したとき、人は初めて幸せを実感し、本当に幸せになれるのではないでしょうか。幸せとは到達点ではなく、毎日の日常のなかにある。つまり、瞬間、瞬間に「幸福を感じることのできる能力」があるかどうかが、人が幸福に生きられるかどうかの分かれ目になるんじゃないかな。

私は今、そばに猫がいてくれた過去の幸福に照らされて、いまだに悲しいけれど、それでも幸福に生きています。しかし、この幸福もまた永遠に続くとは思っていません。思っていないからこそ、幸福を実感できるのです。……というようなことを、この作品から、主人公から、私が教えてもらったような気がいたします。


プロフィール

小手鞠るい
1956年岡山県生まれ。1981年第7回サンリオ「詩とメルヘン賞」を受賞し、三冊の詩集を上梓。1993年「おとぎ話」で第12回「海燕新人文学賞」を受賞し、作家デビュー。2005年『欲しいのは、あなただけ』で第12回「島清恋愛文学賞」を受賞。2009年原作を手がけた絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん』で「ボローニャ国際児童図書賞」を受賞。ニューヨーク州ウッドストック在住。
 

単行本
瞳のなかの幸福
小手鞠るい

定価:1,870円(税込)発売日:2019年02月22日

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