山本亮さん(大盛堂書店)
いつも以上に地の文と会話部分が渾然一体としていましたね。それによって登場人物の息遣いがよりビビッドに響いてきました。そこはおそらく「人形振り」の意識があったのでしょうか。大島さん独特の一筆書きの物語をさらに進化させたような気がしました。
そして、「あをによし」の最後の部分、前世と今生と来世の連なりを断ち切って、そのあわいの感情をそれぞれ一瞬のうちに浮かび上がらせながらも、今生にぐっとフォーカスして半二の作者としての性根がきっちりしていく様の描き方が本当に素晴らしく効いていて。この場面があるからこそ、後半の説得力が増して行き、狂騒にも見える半二や漠達の様子が、生き生きと物語に対して破綻無く躍動していく。そうか、今回の作品は狂おしいほどの躍動でもあったのではないか、これまでの大島さんとは違うとしたら、そこではないかと。
半二の狂おしい妬みがないからこそ、相手の偽りのない本性が静かに見えてくる。そして、そのあわいに半二達の声が響いて、読者も彼らと同じ舞台に取り込まれていく。そこで我々はこの稀有な物語の息吹を、どう感じ取れるだろうか。紛うことなき傑作だと思います。
井上哲也さん(大垣書店豊中緑丘店)
江戸時代の道頓堀、市井の生活、文化が鮮やかに匂い立つ。まるで数世紀前のミナミにタイムスリップしたが如く、舞台の緊張感、観客の息を飲む音さえ聞こえて来そうだ。
当時の大坂の活気が現在の難波にも垣間見られて、半二の産みの苦しみも、今の作家さん達に受け継がれている気がした。古典芸能は、敷居が高いと腰が引けている方に、文楽や歌舞伎の楽しさをたっぷりと伝えてくれる指南書としても秀逸。
奥野菜緒子さん(紀伊國屋書店ゆめタウン廿日市店)
これまでの『ツタよ、ツタ』や『あなたの本当の人生は』といった作品でもテーマになっていた、なぜ書くのかという宿命のようなテーマが最高潮に達し、時おり現実と虚の境目に漂うところがゾクゾクする。
大島さん、めっちゃカッコいいです。最後の一ページで綺麗にじわっと滲む、いい結びでした。
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『皇后は闘うことにした』林真理子・著
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