- 2019.03.08
- インタビュー・対談
【対談】やっぱり「不倫」は文化だ! 女の不倫は欲のため、男の不倫は見栄のため
柴門ふみ ,林真理子
『下衆の極み』(林真理子 著)
ジャンル :
#随筆・エッセイ
林 でも、道ならぬ恋とわかっていながらどうしようもなく惹かれてしまう心や、そこに生まれる美学とか甘美な喜びというのは間違いなくある。そうしたものを書くのが小説であり、作家なんだと思うし、だからこそ『源氏物語』以降、多くの名作が生まれているわけでしょう。不倫がなければ、小説は書けません。柴門さんには不倫をテーマにした作品はありますか。
柴門 『Age,35』や『同窓生~人は、三度、恋をする』ですね。『あすなろ白書』は、ヒロインが上司と不倫します。
林 私たちはそういう人の気持ちの理解者だよね。
柴門 もちろん。作家ですから、気持ちはわかります。遊びたい男の気持ちも、怒る妻の気持ちも。そこに寄り添って人間を描くのが商売みたいなものだから。
林 昔、渡辺淳一先生が「人はもっと不倫すべきだ」っておっしゃっていました。不倫すれば男も女も活力が出てくるし、経済効果もすごい。食事したり、プレゼントしたりで何十億円にもなるはずだ、と。半分冗談でお書きになったと思うんですけど、柳美里さんが「不倫で苦しむ人もいるんだ」って反論していた。
柴門 たしかにこれまで、傷ついた奥さんの側の気持ちにあまりスポットライトが当たってこなかったかもしれない。一昨年、七十代の妻が、介護をしている夫から「若いころの不倫は楽しかった」と言われて、夫を殴り殺した事件がありましたよ。
林 ダンナの浮気を笑って許してる奥さんは偉いという風潮があるけれど……。
柴門 でも、本心から笑って許している妻なんて、実はひとりもいないですよ。オモテでは物わかりのいいことを言っている奥さんでも、よく話を聞いてみたら、夫には怒っているし、愛人と対決した過去を明かしてくれた人がいました。男はよく「なんでそんな古いことを持ち出すんだ」と言うけど、女は自分が痛い目に遭った経験を瞬間冷凍できちゃうんです。ある時ふとした瞬間に電子レンジで解凍して、まるでつい最近のことのようにリアルに鮮明に思い出すことができる。
林 私もそうだよ。夫にされた嫌なことなんて、つい昨日のことのように(笑)。
柴門 なぜ奥さんが不倫に対して怒るかというと、夫は百パーセントの愛情と金と時間を私に分け与えるべきなのに、よその女にそれを使ったからなんだって。『大人恋愛塾』に書いた話なんですけど、ある出版社の男性は浮気がバレて、妻に半年のあいだ毎晩「あの女と何回、どんな体位でやったの?」と責められ続けたんですって。妻からすれば、それは自分がもらって当然の権利だったから。
林 奥さんってさ、自分がなにか後ろめたいことをしていても、絶対にダンナのことを許さないよね。
柴門 やっぱり女は欲張りなんです(笑)。女の不倫は欲のため、男の不倫は見栄のためですよね。男は自分がまだモテることを確認したくて浮気する。
林 なるほど。柴門さんに聞きたいんですけど、上戸彩ちゃんが出ていたドラマ『昼顔』がすごく流行ったでしょう。奥さんたちは不倫のドラマに胸をときめかせてるのに、他人がすると怒るわけ。世間の奥さんたちは本当に不倫している人に怒っているのかな?
柴門 不倫をしてない奥さんは怒るんじゃない?
林 『昼顔』をうっとり眺めたり、疑似恋愛している自分はいいけれど、実際にやってる他人には腹が立つということですか。
柴門 週刊誌の不倫報道を見ると、奥さんはまず妻に感情移入しちゃって、いつの間にか不倫してる男が自分のダンナとかぶってきちゃうんだと思いますよ。
林 なるほど。
柴門 でも、そういう奥さんたちに限って、林さんの『不機嫌な果実』を読むとヒロインになりきって、「不倫の何が悪いの?」と思うような気もしますよね。
林 そうだといいけど。私もそう思いながら書いてますから。「不倫の何が悪いの?」って。
これは設定変えて短編小説にしたことがあるんですけど、昔、女性の読者からお手紙が来たんです。「林さんの本を読んでいますが、実際にはこの世に不倫なんかないと思っていた。だけど、本当にあるんですね」って。彼女が同窓会へ行ったら、チビで勉強もそこそこだった男子がお医者さんになっていてビックリしたそうです。「彼に私のことをずっと好きだったと言われて、会うようになりました。彼が医者になるなら中学の頃にフラなければよかった。うちの夫はサラリーマンで、彼は医者でいい給料をもらっているから悔しい。だから、いま不倫して憂さを晴らしています」って。
柴門 それ、本当の話?
林 うん。それから半年ぐらい経って来た手紙によれば、彼は難病にかかってしまったらしい。「ああ、不倫でよかった。看病なんかしなくて知らん顔していればいいから、結婚しないでよかったと思いました」。それで手紙が終わっていた。
柴門 すごい話だね。でも、女ってそうだと思う。週刊誌を見て「不倫、許せん」と怒っている主婦でも、いざ自分がそういう関係になったら、不倫をすごく楽しむ気がします。
林 楽しいと思うよ。やっぱりおしゃれもするし、表情も生き生きしてくるし。
柴門 人妻でも、五十過ぎると倫理観のハードルがすごい低くなります。
林 おおっ!
柴門 残された人生を思えば、不倫を一回や二回したって罰は当たらないだろう。夫とはもう十年セックスレスだし、死ぬ前にしてもいいんじゃないか、って。
林 そういう時に限って男が来なかったりして(笑)。このお腹は見せられないっていう美意識もあるはず。
柴門 同じくらいお腹が出ているおじさんならいいかも(笑)。でも、妄想してるぶんには楽しいけど、不倫は結局、傷つくんですよ。私は『イングリッシュ・ペイシェント』という映画が大好きなんです。壮大な不倫劇なんですけど、中でも好きなシーンがあって、人妻が夫の許に戻ろうとして、恋人の男は彼女をみんなの前で侮辱する。その男が去っていこうとしているところに彼女は追いかけていって、「傷ついたのは自分だけと思わないで」と言う。泣けるシーンなんですよ。不倫はみんな傷つく。林さんのお友達でも、うまく不倫できてる人ってみんなタフな人たちでしょう。
林 タフでお金のある人。
柴門 だから、不倫は小説や漫画や映画で楽しむほうがいい。これが結論(笑)。
林 そうね。お互い物書きとして読者を感動させる作品を書き続けていこうね。
柴門 はい、頑張ります。
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