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【試し読み】本屋大賞受賞! 瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』第4回

文: 瀬尾 まいこ

『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ 著)

「そんな慌てて食べなくたって」

 むせかえる私を、森宮さんは笑った。

「慌てたんじゃないよ。滑らかなプリンが通るはずだったのにって、食道も気管も怒ってるんだよ」

「恐ろしい内臓だな」

「体中がプリンを楽しみに待ってたの!」

 私は呼吸を整えながらそう訴えた。信玄餅はおいしいけれど、プリンとはあまりに違う。

「ごめんな。俺、本当の父親じゃないから、自分の食欲を抑えて娘に残しておくってことができないんだな。申し訳ない」

 咳き込んで涙ぐむ私にお茶を淹れながら、森宮さんは言った。そんなので、父親にはまってるだなんてよく言えたものだ。それに、本当の家族じゃなくたって、人のものを食べたりしないだろう。買っておいたプリンを二つとも食べられてしまうなんて、不幸は身近な日常にこそ潜んでいるのだ。これは十分同情に値する。私は森宮さんをにらみつけながら、お茶を一気に飲み干した。

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そして、バトンは渡された瀬尾まいこ

定価:本体1,600円+税発売日:2018年02月22日


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