『明治乙女物語』は、なにしろ明治の話ですし、セクハラ反対運動を描く小説では毛頭ありませんけれども、わたしは、世界中の女性たちが「一緒に戦うのよ」と言い始めた記念すべき年に、この小説が日本で出版されたことを、ただの偶然のようには思えないのです。保守的と言われるこの国で、男性作家が、しかし特別の気負いなく普通の感覚で、女性を応援する小説をデビュー作にしたという事実も嬉しかった。新しい時代の空気を感じました。
この小説に登場する女性たちがみんな魅力的であること、そして元気のよい、明るさに満ちていることはいうまでもありません。困難を描いた小説ではなくて、それに立ち向かう勇気と元気と友情を描いた、正真正銘の青春小説だからです。
そして、女たちだけが魅力的なわけでもない。どう考えても、この小説のヒーローは久蔵で、おいしいとこを全部持っていくとまではいいませんが、その外見からいでたちから喋り方から生い立ちから、正統派ヒーローの条件をすべて備えていて、じっさい、とてもかっこいいということも申し添えておきたいと思います。
作者の滝沢志郎さんはすべての登場人物たちを生き生きと描き出すことに成功しました。それは丹念なリサーチを背景にした細部の丁寧な描き方が実現したものだといえるでしょう。まあよく調べたなあと驚くディテールがたくさんあり、それがさらりと一行だけで書かれているのにも舌を巻きました。
なにより読んで楽しい小説ですし、読後感が爽快で気持ちがいいというのも、強くお勧めするポイントです。そして、古い時代を扱った小説でありながら、新しい時代の到来を祝福してくれるような感覚を、存分に味わっていただきたいです。
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