これからお読みいただくのは、アメリカの新しい対抗文化的知性、モリス・バーマンによる、シンプルで力強い近代科学糾弾のパフォーマンスである。原題はThe Reenchantment of the World。近代のやせ細った意味において“enchant”というのは、魔法にかける、あるいは魅了する、となる。妖精が魔法の杖をひと振りすると、世界がキラキラキラッと輝いて……という子供ダマシのイメージに、この言葉は堕ちてしまっている。フランス人は、英米人が「ハッピー」と言う気安さで、「アンシャンテ」(enchanté)を口にする。
モリスが込めた意味は、もっとずっとパワフルである。人の心が、「科学的」(=主体客体分裂的)に再編されていく過程で色あせていった、隠喩的で、演劇的で、肉感的で、世界と一体化した知を取り戻そう──それが本書の熱い呼びかけだ。
前半の第四章までは、世界の脱魔術化(disenchantment)の進展過程がつづられる。ユダヤ一神教の成立は、どのように偏向した人間精神の登場を意味したのか。古代ギリシャにおいて、世界に「のめって」いくホメロス的知が、どのようにして世界を「突き放す」プラトン的理性へと醒めていったのか。「宗教改革」と呼ばれる、西欧精神の体系的な様変りのなかで、錬金術的な知がどのような変質を余儀なくされていったか。デカルトとベーコン、ガリレオとニュートンによって固められたリアリティのなかで、近代人はどのようにゆがんだ日常を生きる羽目になってしまったのか。
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