本間悠さん(明林堂書店南佐賀店)
北海道に生まれ育ち、アイヌ民族の事を知る機会は多かったはずなのに(民族資料館みたいなところへも授業の一環で何度も足を運びましたし)、彼らについてほとんど何も知らなかった事を思い知らされました。
私の生まれ育った道南の町は、当然のようにアイヌ語に由来する地名がつけられ、通っていた高校からほど近い『イタンキ浜』という浜辺には、彼らの民話が残されています。その民話『フンベ岩の話』については、小学校の時に習いました。
砂浜から少し離れた沖合にあるその岩は、まるでクジラ(アイヌ語でフンベ)の背のように見え、それを見たアイヌの人々はクジラが近くにいる、きっと食べられるはずだと喜び、その浜辺でクジラを待って何日も宴会を開き、そのまま全員が餓死したというものでした。印象深いエピソードだったので、今でも鮮明に覚えています。
アイヌ民族は北海道土着の人々であり、各地に様々な伝説・民話も残っていて、その文化を伝承し、敬意を払うべきだとする一方で、周辺の大人たちが、その存在を良く思っていないのはわかっていました。誰誰さん家は、アイヌの家系だからなど、大人たちがまるで禁忌であるかのようにささやきあうのを幾度となく耳にしました。近くにあるのに、いや、近くにあるからこそ、自分たちは彼らとは違うのだと、そんな思いがあったのかも知れません。今になれば、なんて浅はかで、愚かな差別だと歯噛みする思いです。
同級生たちは、いるはずもないクジラを待って、宴会に明け暮れ、餓死した民族の哀れな末路を笑いました。
私も同じでした。彼らは、本文で語られるように『滅びるべくして滅びた民族』なのだとすら、思っていました。
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