山本亮さん(大盛堂書店)
北海道、サハリン・樺太、ロシア、ポーランドと19世紀後半から20世紀にかけて、時代に翻弄される人間たちの相克を描く物語。アイヌなどそれぞれの土地に住む民族の環境や考えの違い、また同じでも互いのせめぎ合う感情と理想。時代や政治状況をダイナミックに描きつつも、登場人物のちょっとした心情をも細やかに物語の軸として決して疎かにしない著者の姿勢に、前作『天地に燦たり』に続き、改めてテーマに良い意味で呑み込まれない素晴らしい才能を堪能できた。
その上で、序盤部分とラストは見逃すことが出来ない。そして作品を通じて、どのような状況でも生き残る、いや生き続けなければならないという、拳を握りしめるような確かな息遣いを強く感じた。それはノンフィクションだけでは描くことが出来ない、小説だからこそできる表現を求めた著者の挑戦でもあるのではないだろうか。
内田俊明さん(八重洲ブックセンター)
一個の人間は非力だが、それでも何かをおこしうる熱源を、誰もが心のうちに持っている。さまざまな時代、国、民族、立場の人々が持つ熱源を描きつくそうという川越氏の、まさにその熱源を、ひしひしと感じました。大変な力作、労作でありました。
井上哲也さん(大垣書店豊中緑丘店)
読めば読むほどに、心が痺れる様な感動が拡がっていく。 川越宗一は、ただの大酒呑みでは無かったのだ。 読者を酔わせる酔っ払いだったのだ。 彼の奥深き熱源に脱帽。
歴史小説、今年最大の収穫!
伊藤佑太郎さん(紀伊国屋書店流山おおたかの森店)
強大なうねりの中で「人」としての生を全うした人間達の物語。帝国主義による侵略と支配。文明という名の同化の圧力。結果として失われた故郷や文化。優勝劣敗。強者の不条理がまかり通る世界で生きることを強いられた者たち。翻弄され奪われ蔑まれ、それでも彼ら彼女らは生きていく。何がその生を支えたのか。何がその生を突き動かしたのか。その核心に触れた時、心の奥底から止めどない熱情が溢れ出た。この本に込められた熱は絶やしてはいけない。その想いを胸に来年は、この本のために本屋大賞に参加しようと心に決めた。